第3部『現実』

第1話「忘れた記憶」

麦兵衛小町さん・・・小町さん・・・
麦兵衛は草むらに寝かせた雪村小町の近くで呼びかけていた
暫くは目を覚ます雰囲気も無く眠り続けていた
先ほどから目を覚ましそうな雰囲気になったので呼びかけ始めた
但し周りには聞こえないように小さな声でだが・・・



     *     *     *



麦兵衛は一度先の現場に戻っていた
無防備な小町を寝かせたこの場を離れるのをためらったが
周りからは視覚的に隔離された場所を選び寝かせ
あたりを確認しつつも出来る限り早く現場に戻った

死体のある場所に戻るのは躊躇われたが
小町支給のバッグを持ち去り損ねたのだった
武器も食料・水分も大事な物だ
もしかしたらあの死体の荷物も・・・

そこまで考えて麦兵衛は思考を止める
いくらなんでもそこまでは・・・
例えこう言う状況でも越えてはいけない一線がある、と麦兵衛は考える
『無作為に殺す』などは最上位に含まれるが
やはり『死者を冒涜する』ような行為は麦兵衛には許されなかった


暫くして血の匂いが強くなってきた
先ほどの比べて鉄のような匂いが当たり一面に立ち込めている

・・・クッ・・・
死体を目の前にして一瞬目を背ける
直視できるような状況じゃない
自分の学校ではないが、どこか見たことあるようなデザインの制服を身に纏い
それは血に染まって黒くなっていた

身体は黒く染まっている事以外はほぼ無傷だろう
だが・・・頭は・・・
そこにあるはずの首から上は存在しない
辺りを血に染めながら飛び散っている物体
それがかつては顔と呼ばれ、髪の毛と呼ばれ、耳と呼ばれ・・・
かつて『ヒト』を形作っていた物であった

制服から女の子である事が辛うじて解る以外何も解らない

この子の亡骸を埋葬するべきだろうか・・・
小町を置いてきているから一刻も早く戻りたい
だがこの子をこの場所に置き去りにすることもまた、麦兵衛には出来なかった



大して深くもない穴
道具も満足にないのでコレが限界だった
だが、多少他から土を集めれば取りあえず埋める事は可能だ

少女の亡骸をその場所に入れ、土を盛る
さすがに飛び散った肉片までは回収できない
身体だけ・・・改めて運ぼうとした時、死体を見て胃の中の物を戻してしまった
凄惨な・・・今までの生活で目にするようなことの無い状況にいることを再確認させられた


荷物は既に無かった
この女の子のも、小町のも
麦兵衛は無我夢中で走っていたので気付かないが、既に1時間近くが経過している
その間に、やはりスタンの光に誘われた者が持ち去ったのだろう

とにかく女の子を埋葬しただけでも良しとし、麦兵衛は小町の元へと戻った



     *     *     *



しばらく呼びかけを続けていると、今まで開かなかった目をゆっくりと開けた

小町・・・ん・・・牧島くん・・・
麦兵衛「よかった・・・小町さん」
小町「ここは・・・どこ?」
麦兵衛「小町さん倒れてたから移動させたんだ」
小町「え?・・・でもこんな森どこに・・・どこで倒れてたの?私?学校は?」
麦兵衛「・・・・・・小町さん?じょーだんを   
小町「牧島くんこそ・・・何を・・・言ってるの?こんな場所桜坂市にあるわけ・・・」
麦兵衛   ッ」
冗談を言っているようには見えない
大体小町さんはこんな冗談をつくような人ではない
冗談を言うことは良くあるが・・・それは桜井舞人に対する時だけだ

無理も無いと思う
あの惨状の瞬間を見たのだろう
・・・現実を教えるべきだろうか
小町さんにこんなことを知って欲しくない
だが、知らずにいれば死ぬかもしれない・・・それも嫌だ
小町「・・牧島・・・君?」
小町さんに焦りが見え始める
オレの雰囲気から何かを感じ取ったのかもしれない
嘘を貫き通すのは・・・難しいか・・・
麦兵衛「小町さん・・・落ち着いて、俺の話を聞いてくれ」
小町「え・・・?」
麦兵衛「ココでは、殺し合いが行なわれている」
小町「・・・・・・な・・・なぁに言ってんだべさぁ」
麦兵衛「オレが、冗談や酔狂でこんな事を言うと思うかい?」
小町「・・・・・・・・・」

ゴクリと息を呑む音が聞こえる
俺の表情にただならぬ雰囲気を感じた小町さんのものか
この状況に戸惑っている自分のものかもわからない程に、俺は緊張していた

麦兵衛「本当・・なんだ、現に小町さんは一人殺されるのを見てしまったはずだ」
小町「・・・・そ・・そんなわけ」
麦兵衛「おそらくそれで心を閉ざしてしまったのかもしれない、だがそんな状態では小町さん自身が危険なんだ
   思い出したくないかもしれないけど・・・思い出して欲しい」
小町「・・・そ・・・・・ん・・なこ・・・・・と・・・・・・・・」
麦兵衛「女の子だった・・・どこか見たことのある制服の・・・」
小町「ッ!!」
麦兵衛「小町さん?  」思い出した?

口を開こうとした瞬間小町さんは急に立ち上がった

小町「そ・・・そんな訳ないべさ、そんな・・・」
麦兵衛小町さん!」逃げるな!!
立ち上がり怒鳴ろうとした瞬間に小町さんは背を向けて走り出してしまった
麦兵衛「なっ!」

慌てて追いかける
この辺の道はでこぼこした獣道だ
あちこちに石やら木の根やらがある
それらに気を配りながら走る必要がある
が、小町さんは何も見ずに、ただ無我夢中に走っている
それなのにまったく転ばず
結果として追いつけないスピードで・・・



足元に気を配っている場合じゃない
そう決めて全速力で走り始める
ほとんど勘で、歩き難い道に足を進める

麦兵衛「くぅ」
段々近づいてきたというのに急に足先に激痛が走り転倒する
つまずいた!?
こんな状況で!!
すぐに立ち上がり後を追いかけようとする
??「そんな急いでどこ行く?」
目の前に立ちふさがる男
その手には細身の小型ナイフが幾つも握られている
足元を見ると
同じようなナイフが足先に刺さっていた

【残り89人】






第2話「接近と恐れ」

認めたくない

認めたくない

脳裏に過ぎる不鮮明な赤い記憶
自分の生活でそんな事体験したはずが無い
そう、きっと夢だ
コレは夢だ
その記憶は、きっと夢だ

小町は必死に走りながら自らの記憶を否定していた
だって信じられない
昨日までは普通に生活して
青葉ちゃんと話して
瑛ちゃんに料理を教えて
先輩と笑って

・・・それが急に殺し合いなんて・・・嘘だ

麦兵衛君の付いた他愛も無い嘘だ



小町「あ・・・」
人がいる
2人
怖くなって足を止める
いくら否定しても何となく人に接したくないという気持ちがある
だが、もし話し掛けて
『殺し合いなんて嘘だ』
と言ってくれればそれで終わるんだ
この不安な気持ちも・・・


ガサッ
意を決して2人に近付く
パティ「だ・誰!!」
片方の短い髪の女の子が大きな声で怒鳴る
不安が大きくなる
この警戒・・・嘘・・だよね・・・?

小町「あ・・・あの・・・(戦いなんて・・・)」
口が上手く動かない
話したい事が喉から出ない
それで少しずつ近付く、相手はさらに警戒を強めた

小町「こ・・・ころし・・あいな・・・・んて(嘘だよね)」
少しずつ声を出していく


だがかすれたような小さい声だ
その声は正確には二人に届かない

逆に『殺し』と言う単語だけが聞こえ

正気を失ったかのような歩きで

確かに近付いてくるこの小町を

ただ『危険な対象』としか認識できなかった

故に

2人のうち1人は

恐怖に負けた

シーラ「きゃ・・・・きゃぁぁぁぁぁ」ボグッ
近付く女に恐怖した女の1人は、持っていた太い木の枝を思い切り振り下ろした
女は普段重いものなどめったに持たぬ箱入りではあったが
それでも恐怖ゆえにいつもよりも強い力で殴りかかってしまった
小町は信じられないものを見るかのような目で振り下ろされる物を凝視し
その一撃を肩口に受けその場に倒れた


パティ「シ・シーラ!やりすぎ・・・」
シーラ「ご・ごめんなさい・・・怖くて」
パティ「ったく、気持ちは分かるけどね」
シーラ「と・とにかく手当てを・・・えと・・・」
パティ「・・・それよりもまず場所を移しましょう、大声出すんだもん ここにいるのは危険よ」
シーラ「あ・あれは   
パティ「ま、とにかく移動が先、荷物持って、私がこの子を運ぶから」
シーラ「す・すみません」
パティ「いいから、行くわよ」

そう言うとパティ・ソール(56)は小町を担ぎ
シーラ・シェフィールド(36)の後ろを歩き始めた
安全など無いこの島で
少しでも安全な場所を求めて

【残り89人】






第3話「認められない事」

麦兵衛「何故・・・邪魔するんだ」
麦兵衛はかすれたような声で突然現われた男に尋ねる
「逃げる女を追う必死な男・・・普通止めないか?」
麦兵衛「た・確かにそう見えたかもしれんが・・・」
「ワケ有りか・・・掻い摘んででもいい・・・話してみろ」
麦兵衛「そ・そんな事をしている暇など無い、すぐに   
サクッ 麦兵衛「!!」
麦兵衛が一歩前に出るとその足元にナイフが刺さった
「信じられると思うか?・・・もし君が嘘つきで人を殺すつもりなら・・・ここで止める」
麦兵衛「・・・解った・・・」



「なるほど・・・記憶喪失・・・俄かには信じがたいが・・・」
麦兵衛「本当なんだ」
「それは信じよう、君は嘘をつけるような人物には見えん」
麦兵衛「有り難い、じゃあ俺はコレで   
麦兵衛が立ち去ろうとするとそれを男が制し 口を開く
「だが、君が行く事が本当に必要なのか?」
麦兵衛「なっ!当たり前だろう!ココは殺し合いをする島だぞ、現に   
「だがそんな人物は稀だ、君が行く事でその子の精神的負担になるかもしれない
 あの子自身 そういった気持ちに潰されそうになったからこそ 逃げたんじゃないのか?」
麦兵衛「そんな・・・・・・」
「君自身が一緒にいたいという思いを拒絶されたのを認められないだけじゃないのか?」
麦兵衛「・・・事は・・・」
「君は自分の正解を彼女に押し付けているんじゃないのか?彼女の事を考え   
麦兵衛ダマレェェェェェ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜





パティ「ちょっとシーラ?大丈夫?」
シーラ「はい・・・平気ですよ、パティさんこそ・・・」
パティ「あたしは重い物慣れてるからね、荷物一つ貸して」
シーラ「そ、そんな悪いですよ」
パティ「いいからっ!」
人1人背負ったパティがさらに荷物を受け取る
宿屋兼酒場で日々働いているだけのことはある体力
あれから少しの間二人は何とか移動していた
この移動で逆に人と会う可能性も捨てきれないが、同じ場所に留まるのも怖かった


パティ「そろそろ・・・いいかな・・・」
いい加減ばて始めてきたパティが終わりを告げた
シーラ「そう・・・です・・・ね・・・」
荷物が減ったとはいえ元々体力の無いシーラはかなり疲れていた
それでも自分のせいで移動する事になったという責任感からなんとか歩き続けた
パティ「さて・・・この子・・・どうしよう・・・」
パティが小町を地面に寝かせてからシーラに訪ねる
息はしているし、ただ眠っているだけのように見える
放っておけばすぐに目覚めそうな感じではある
パティ「えーっと・・・こう言う場合は・・・」
麦兵衛小町さん!!
「っ!!」
突然聞こえた第三者の・・・男の声に二人は身を強張らせる
恐る恐る見ると・・・男が1人立っていた

ただし

その男は

ほとんど怪我が無いように見えるにもかかわらず

血塗れだった





「くっ・・・自分と相手の力量を測り違えたか・・・」
麦兵衛が去った後、ゼファー・ボルティ(81)は力無くその場に座り込んだ
手で押さえられた胸からは鮮血を流れ出ている
おびただしい量の血は彼を紅く染め
地面すらも紅く染め始めていた

ゼファー「自らを押し付け、強く握るだけでは・・・必ずその指の隙間からこぼれ落ちるぞ・・・少年」
既に居なくなった自分を傷つけた男に語りかけるように呟く
もはや傷口を押さえる手にも力が入らなくなってきていた
ゼファー「オレも・・・終わり・・・・・・か・・・」
傷口に添えられていた手は力なく地面につき
ゼファーの意識は深い闇へと落ちていった





麦兵衛「・・・小町さん・・・」
赤く血にまみれた男がゆっくりと近付いてくる
二人は即座に思った
『この男は危険だ』と
パティ止まりなさい!!
パティが必死に大声をあげる
その声に男の歩みが止まる

パティ「あなた、この子の何?」
麦兵衛「クラスメイトだ」
即座に男が答える
パティ「なら、この子を殺すつもりは無いのね?」
麦兵衛当たり前だ!この血も、小町さんと僕の邪魔をするから・・・」
パティいい!聞きたくない!! とにかくこの子は渡す、私たちは消えるわ」
シーラ「パティさん?」
シーラはこの子を危険に見える男に渡すのが不安なのだろう
だが、パティにはそれしか選択肢が無かった
自分とシーラを生き残らせるには
きっと狂い始めているこの男とて、この子を殺すとは思えない
そして下手に戦えば自分は負けるだろう
だったらこの場は彼の良心が一番働きそうな方法にかけるしかない
パティ「いいから、行くわよ」
シーラ「・・・・・う・うん」
必死なパティを見て、シーラも何とか納得する


小町「ん・・・ん〜」
が、収拾しかけていた事態は、再びかき乱される
小町の目が覚めてしまった
麦兵衛小町さん!!
麦兵衛が歓喜の声をあげる
知った声を聞き、小町はそちらを虚ろな目で見る

その目に映るのは

日常とはあまりにかけ離れた

赤く染まり、負の雰囲気が漂う男だった

一瞬思考が停止する
小町「ま・・・きし・・まくん・・・・・それ・・・」
必死で声を出そうとするが喉から出てこない
代わりに恐怖ばかりが沸き起こる
だがそんな小町の気持ちをよそに麦兵衛はどんどん小町に近付く
小町の目には麦兵衛は恐怖の対象でしかなかった
小町「・・・や・・・」
麦兵衛「どうしたの?小町さん?」
小町いやぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜
先ほど逃げたときとは違う
明らかに恐怖した声を上げて小町は逃げ出した

先ほどは恐怖から逃れる為
今度は
恐怖たる牧島麦兵衛そのものから逃げる為に

小町が逃げた瞬間 麦兵衛は呆然とした
何故逃げるのかが解らない
彼の思考はもう停止しているも同然だった
普段の彼なら気付くような当然のことでさえ、今の彼は考える事ができない
彼はただ、自分の考えたとおりにならない物を
ただ不思議な物、変な物、有ってはならない物としか認識できない

だが小町を否定する事だけは彼には出来ない
故に
麦兵衛お前達の・・・
「ヒッ」
その場に居た別の人物に罪を着せる事で小町を、自分を守ろうとした
パティもシーラもことの成り行きを少しはなれた場所で見ていた
それが災いした
もしこの時、既に逃げていれば
彼女らが狙われる事は無かったのかもしれない

だが麦兵衛の意識は二人を捕らえ
自らの感情の矛先を二人に向けようとしていた
暫く止まっていた麦兵衛の歩みが再開する
自らの心と小町の存在を守るために
二人の少女にすべてを押し付けるために


81番 ゼファー・ボルティ 死亡
【残り88人】







第4話「信じられる事」

小町は走っていた
恐怖を振り払う為に
拭い去れないほどの嫌な感触を何とか振り払うように
ただ走っていた 

そして見つける
自らが唯一信じられる存在を
それを求めて
駆け出した

小町「せんぱい!」
舞人「雪村?大丈夫か」
「小町お姉ちゃん!!」
小町「瑛ちゃん?」

雪村の探し求めた男と会う事が出来た
そして自分の妹分のような存在である水無月瑛も一緒にいた
これはかなり安堵できることだ
二人が集まっているという事は普通に見えるから
ココが殺し合いの場なんかじゃないと思える材料だから
でも
舞人の『大丈夫』と言う言葉は一瞬の不安を覚える
日常生活ではおおよそ使い難いニュアンスに感じたからだ

舞人「どうした?雪村?鳩がBB弾食らったような顔して?」
「なんなのよ?それ」
舞人「ふむ、2gペットに鬼の様に生卵が入っていた瑛君には理解できないかな?」
「そーゆー事を言わないで!蹴るわよ!!」

ドガッ

舞人そーゆー事は言って欲しい・・・先に・・・
小町「あはっ」
舞人「ん?どうした雪村?なんか変なものでも食ったか?」
小町「いえ、ただ・・・安心しちゃって・・・ははっ、ふふ」

いつもの光景に胸がほっとする
殺し合いなんて嘘だという気持ちが肯定されたかのように感じた

舞人「支給食料にワライタケでも入ってたか?」
小町「え?」
舞人「武器が蕗(ふき)だったりしたのか?」
小町「せんぱい・・・何言って・・・」
舞人「ん?」

小町の心が再び揺れ動かされる
理解を超える言葉を舞人が話している
『支給食料』『武器』

小町「せんぱい・・・ここは・・・殺し合いをする場所なんですか?」
舞人「雪村・・・何を・・・」
小町「夢でもなんでもなくて・・・ホントにそうなんですか!!
そこまで言われて舞人にも小町の状況が察する事が出来た


小町がじっと舞人を見つめる


否定して欲しそうな目で


舞人「・・・ここは・・・殺し合いが行なわれている場所だ」

舞人は小町をじっと見たままそう告げた

小町「そん・・・な・・・」
がっくりと小町が膝をつく
自らの最も信頼する男
冗談を言う事は良くあるが、時と場合による
こう言う状況で、この目をして嘘を言える人間ではない
小町はそこまで解った上でなお、信じがたかった

舞人「だがな、雪村」
その声に小町が顔を上げる
舞人は視線を逸らしながらそのまま続ける
舞人「だからどうした?」
小町「え?」
舞人「雪村は、俺や瑛ちゃんと殺し合いをしたいか?」
小町「いえっ!そんな訳ないです」
舞人「俺も嫌だ」「あ、あたしも!!」
雪村が否定すると同時に舞人と瑛が同意する

舞人「だったら・・・いいんじゃないか?」
小町「え?」
舞人「このまま3人でいればいいだろ、何とかなるって」
あまりに楽観的過ぎる舞人ではあるが
そんな事を言う舞人を見て小町は頼もしいと感じた
自分が自分を忘れて
人の心を傷つけて逃げ回った事が、どうしようもなく小さく感じられる
小町「そ・・・そうですね」
だから小町も信じる事にした
舞人を
瑛を
自分を

確かにこの状況は信じられないような事だけど
せんぱいとなら
皆となら
何とかできるのかもしれない
そんな風に思った

【残り88人】






第5話「交錯する狂気」

麦兵衛「おまえ達は・・・なんで邪魔をするんだ・・・」
麦兵衛は呟きながら二人に近付く
言いがかりも甚だしい物言いではあるが二人は反論できない
反論すれば、より大きな狂気となり、二人を襲うだろう
パティ「シーラ、逃げなさい」
パティが小声で呟く
シーラ「・・・」
パティ「逃げて・・・シーラ?」
隣に居るシーラからは何の返答もない
シーラはパティの声など聞こえていなかった
ただ
目の前にある恐怖の対象から目をそらさずに凝視するのが精一杯
何も考えられなかった
凝視してどうするつもりなのかも
逃げるのか
戦うのか

パティ「ちっ」
パティは一歩前に出る
パティ逃げて!シーラ!!
大声で怒鳴る
その声に反応した麦兵衛は歩を早める
麦兵衛五月蝿いよ!お前!!
麦兵衛はナイフを持った右手を振り上げる
何とか横に転がりそれを避ける
麦兵衛「ちぃ!」
麦兵衛はなおもパティを狙いナイフを振るう
ほぼ我武者羅に振るわれるナイフ
武道に精通している物なら軽くいなす事も可能だろう
だがそうでないものにとっては我武者羅な動きは対処しづらく、脅威である
右手・右足首・左手首
避けきれずパティの体が傷ついていく
麦兵衛「これで・・・終わりだぁ!!
麦兵衛が大きく腕を振りかぶる
その隙に渾身の力で腹を蹴った
麦兵衛「がはぁっ!」パティ「あぅ」
蹴った右足は既に傷ついており、蹴る事でさらに傷口が広がった
衝撃で両者の間隔が空く
シーラ「きゃっ」
麦兵衛「ん?」
だが、パティの蹴り飛ばした方向は
シーラの居るところだった
パティ「シ・シーラ!!?」
パティはナイフを避けることだけに集中し
当然逃げている物だと思っていたシーラの位置を把握していなかった
麦兵衛の攻撃対象はすぐ近くで声を出したシーラに切り替わった
パティは慌てて駆け出すが
そのときには既に麦兵衛の腕が上がり

・・・

振り下ろされるかと思われたその腕は止められ
直後麦兵衛はシーラとの距離をとるように後ろへ飛ぶ
ダンッ
腹の奥に響くような銃声が鳴り
シーラと麦兵衛の間の空間を無数の鉛球が薙ぐ
麦兵衛「くっ」
ほぼ直感で勝てないと判断した麦兵衛はその場から消えていた

パティ「シェリル!!」
パティがその銃声の起こった方角を見ると見知った女性が立っていた
似合わぬほどの無骨な銃を持ち
逃げた男の先へ銃口を向けていた
シェリル「ちっ」
誰にも聞こえないような舌打ちを漏らす
シェリルにあるのは、ただ獲物を逃がしたという感慨だけだった

パティもシーラもシェリルの元に集まった
二人は微妙な違和感を感じ
パティはシェリルの様子を観察し
シーラは戸惑いながらもお礼を言っていた

シェリルにはその言葉が聞こえていなかった
いや、理解できなかった
自分はシェリルという名前ではないのだから
桐山和雄という殺戮者なのだから

シェリルは黙って銃口をシーラに向ける
シーラ「えっ?」パティ「なっ?」
ダンッ

パティきゃぁうぅぅ
シーラ「パ・・パティさん!!
とっさにパティはシーラを押し倒した
だが二人が共に避ける事は出来ず
無数の鉛玉がパティの背中を抉り取っていった

シェリルの持つショットガンがシーラの胸に向けられる
シーラ「ぁ・・・ぅ・・・」
シーラは金縛りになったように動けない
パティも動けるような身体ではなかった

その銃口がとっさに逸らされた
そしてそのまま
ダンッ ぱらら
ショットガンが森に向かって放たれ
同時に違う種類の音が鳴った

シェリルは次弾を装填しながら森の方向を凝視する

半ば闇雲に打たれたショットガンはアイズを捉えることも無く
牽制で打たれたマシンガンはシェリルにあたる事は無かった
森から飛び出したアイズは一直線にシェリルの元へ駆ける

ダンッ
アイズは冷静に指を見て横に跳んだ
弾は逸れ
アイズはマシンガンをシェリルに向ける
と、何か丸い物がアイズに投擲された
とっさに銃でそれを真上に思い切り弾き飛ばす
空中で爆発する手榴弾
その隙にシェリルがショットガンをアイズに向けた
ヒュッ
そこを狙って何かがシェリルめがけて跳んできた
針のように鋭く削られた木片が手榴弾を握っていた左手首に深々と刺さり
シェリルは手榴弾を取り落とした

そのまま引き金を引けばアイズは殺せるはずであったが
シェリルは新たな来襲者を警戒しその場を立ち去った
アイズがマシンガンを放つが巧みに避され、そのまま逃走を許してしまう
アイズ「俺が追う!マックスは二人を・・・」
マックス「解りました」
アイズはそう言い残してさらにシェリルを追い始めた



     *     *     *



この攻防の直前、アイズは三編を追跡中に再びある男に出会った
マックス「アイズさん!どうしました」
アイズ「マックス!?」
決して不思議な事ではない
一度会ったという事は近くを移動しているはずなのだ
分かれたとはいえもう一度会う可能性は低くない

アイズ「さっきルシードを襲った奴を追跡中だ」
アイズは走りながら完結に状況を説明する
マックス「加勢します」
アイズ「助かる」

そして追跡する事数分
三編をぎりぎり視界に収めていたのだが
そこで危険な光景を見た
人が3人いる
そのうち一人は逃げ去ったが、まだ二人居る
さっきの三編の状況からすれば問答無用で殺すだろう
アイズはいっそう早く駆け出す
アイズ「俺が先に行く、マックスは隠れて、隙をついてくれ」
マックス「解りました」
三編は追跡者が1人だと思い込んでいるはずだ
その隙を突くための作戦だった



     *     *     *



その作戦はある程度の成功を収めるが、結局逃げられてしまった
だがこれまでは傷一つつけられなかったのだ
少しは進展したはず

アイズはシェリルを追いながらマガジンを取り替える
『これ以上の犠牲者は出させない』
そう心の中で呟いた

【残り88人】






第6話「消えゆく者」

・・・失敗した・・・
本来なら一撃で仕留められる急所か
さもなくば逃走を封じる為に足を狙うべきだった
だが当たった場所は左手
しかしこれでおそらくアイズ1人でも十分取り押さえる事は可能だろう
左手とはいえショットガンを撃つのに支障が無い訳がない
次弾を装填するのさえ辛いはずだ
手榴弾を使うような戦法も封じられた
・・・アイズさんを信じよう・・・

シーラパティさん!パティさん!!
マックス「・・あ」
女の人の叫びで現実に引き戻される
慌てて倒れている人の傷口を見る が
マックス「う・・・」

一目見て解る
『助からない傷』である事を
完全に背骨の途中が抉られて無くなっている
もし魔力が使えたとしても・・・自分ひとりでは、まず治せまい
フローネと一緒であれば・・・可能性が無くもない
だが、この場では例えそうだとしても不可能だろう
結界がある限り

シーラパティさん!!
パティシ・・・シーラ・・・
シーラ「あ・・しっかりして」
パティごめ・・・ん
シーラ「そんな・・・すぐに魔法で」
パティ無理・・よ・・・ここじゃ・・・・・
シーラ・・・と呼ばれた人が、パティ・・・と呼ばれた人の胸に手を置くが
パティが力なくその手に自らの手を重ねる
シーラやってみないとっ!
パティ無理・・・だいたいこの傷じゃ・・・・治らないよ・・
シーラパティさん!!
パティゴメン・・・ひとりに・・・・いや、だれか・・いるね・・・・・シーラを・たのむわ
マックス「・・解りました」
シーラパティさん!!!
パティなんだか・・きずが・・・いたくなくなっ・・・・・・・・・
シーラパティさん!パティさん!!
パティ「・・・・・・・・・・・」
シーラさんが何度も何度も名前を呼ぶが・・・
マックス「シーラさん・・・もう・・・」
シーラうぅっ・・・
名前を呼びはしなくなったが、それでも泣き止みはしなかった



マックス「大丈夫?」
シーラ「・・・はい」
数十分後
ようやくシーラさんは落ち着いたようだ
ずっとパティさんに覆い被さるようにしていた頭をようやく上げる
と、その顔を見た瞬間、1人の家族の顔を思い出し、口に出た
マックス「ネート?」
シーラ「え?」
マックス「いや・・・なんとなく・・雰囲気は違うか・・・」
シーラ「?」
マックス「いや、ゴメン知り合いにそっくりで・・・名前は?」
シーラ「・・シーラ・シェフィールドです」
マックス「シェフィールド?」
シーラ「?はい」
マックス「知り合いの名前はネート・シェフィールドっていうんだけど・・・知り合い?」
シーラ「いえ・・・知りませんけど・・・」
マックス「そっか・・・」

・・・アイズさんは時代が違うのではないかと言った
歩君もそんな呟きをしていた
おそらくシーラとネートはどちらかがどちらかの先祖なんだろう
もうココまで来たら不思議な事など何もない

マックス「あの・・・三編の女の人は知り合い?」
シーラ「・・・はい、シェリル・クリスティアっていう子で・・・あんな人じゃ・・」
マックス「・・?」
何も言わずに先を促す
シーラ「本とかそういうのが好きな・・・文芸少女っていう感じの」
マックス「あんな性格ではない?」
シーラ「はい・・・全然別人のようでした」
マックス「だとすると・・・本当に別人か、暗示・洗脳をかけられたか・・・」
シーラ「・・・暗示・・・」
マックス「?」
シーラ「あの子・・・本を読むとその世界に没頭しちゃうんです」
マックス「いや・・・そんな人いくらでも――」
シーラ「いえ、あの子は本当にその世界の住人になったように性格も変わっちゃって・・・」
マックス「・・・・・・・・・それでも暗示って言うのは、日常とあまりにかけ離れた物事をする時、
   心理的ブレーキが働く物です・・・例えば普通に暗示をかけただけでは人を殺させるなど不可能。
   おそらく普通に本を読んでその世界に没頭したとしても、人を殺すことは出来ないでしょう。
   つまり、この二つの要因・・・暗示に勝手にかかると言う事を下地に
   強力な暗示をかける・・・っていう感じでしょうか・・・」
シーラ「・・・う・・ん?・・・」
一気に長い話(というか呟き)にすこし戸惑っているようだが
それには気付かずに思考を続けてしまう
マックス「・・仮にそうだとしても、そこまで強力な暗示だと・・・直す手立てが・・・」
シーラ「あの・・・トリーシャっていう子がいるんです」
マックス「?」
シーラ「その子はいつもシェリルちゃんが物語に没頭した時に現実に引き戻すんです」
マックス「どうやって」
シーラ「・・・チョップ・・・です・・・」
マックス「へ?」
シーラ「頭に・・・トリーシャチョップ!って・・・」
ちょっと真似をしてみたみたいだが、恥かしいのかあまり声は出ていなかった

マックス「まぁ頭部に強い衝撃って事でいいのかな?」
シーラ「良く・・・わからないです、・・・パティさんとか・・・リサさんが頭を叩いても治らなかったような・・・」
・・・パティ・・・リサ・・・どちらも死んだ名前だ
シーラさんもこの名前をあげる時に一瞬言いよどむがそのまま続ける
それならばこちらもそのまま接するのがいいだろう・・・
マックス「それじゃ、その・・トリーシャさんに会ったら聞いてみるのがいいでしょうね」
シーラ「・そうですね」

嘘を付いた
おそらくその人と会う前に決着はつく
もともと力量はアイズさんのほうが上
アイズさんはあの身のこなしを見る限り、何らかの訓練をしていた人だろう
それに対してシェリルさんは暗示にかかっただけの一般人
さらに片手の怪我
アイズさんが殺すかどうかまではわからないが、きっと最後まで正気に戻らないようなら非情になって殺すだろう。少なくとも、そうしなければ犠牲が増えてしまうのだ
今不安をさらに増やす必要はないだろう
それより・・・

マックス「シーラさんはこれからどうするつもりですか?」
シーラ「・・・解ら・・ないです・・・」
マックス「ゲームに乗って戦うか、逃げるか・・・管理者に抵抗するか・・・それだけでも」
シーラ「私は・・戦うのなんて怖いですけど・・・・・・こんな事を考え付いた人たちが・・・許せません」
マックス「・・そうですか・・」
強いな・・・脆そうなお嬢様って感じだけど・・・芯は強い
ネートと確かに似ているようだ

マックス「それじゃとにかく今は休んでください」
シーラ「いえ――」
マックス「無理です、身体はともかく、精神的につかれきってる」
シーラ「・・・・・・はい」
マックス「いろいろ考えるのは、起きてからにしましょう、暫く見張ってますから」
シーラ「解りました・・・・・・ありがとうございます・・・」

周りを草に囲まれた場所にシーラさんを寝かせ
パティさんの埋葬をする
といっても穴を掘って埋める程度だが
本当に辛い日々になりそうだ・・・

56番 パティ・ソール 死亡
【残り87人】







第7話「決意の時間」

理緒そろそろリョーコちゃんとの待ち合わせ時間か・・・
急に空を見上げて理緒さんが呟く
フローネ「どうしたんですか?」
理緒「私の仲間と待ち合わせの約束があるの、
  フローネちゃんとの合流以外何の収穫も無かったけど・・・でもその確認も必要だし」
フローネ「そうですか」
理緒「それじゃ移動しましょう、少し早いですけど・・・ちょっと休憩でもして待ちましょう」
フローネ「はい」



     *     *     *



理緒「そういえば・・」
合流地点に着き、休憩をし始めてすぐに理緒さんが訪ねてきた
理緒「フローネちゃんの武器ってなんだったんですか?」
フローネ「えっ!?」
理緒「私のはこれだったんですけど」
そう言って1本のナイフを取り出す

フローネ「ナイフ?」
理緒「えぇ、スカウト・ナイフ・・・私も実物を見るのは初めて・・・」
フローネ「スカウト・・ナイフ?」
理緒「まぁ早い話がナイフの中に銃が仕込んであるの」
フローネ「へぇ・・・なんだかすごそうですね」
理緒「で?」
フローネ「え?」
理緒「フローネちゃんのは?」
フローネ「あぅ・・・どうしても言わないとダメですか?」
理緒「ダメって訳じゃなかったんですけど・・・そういわれると余計に気になりますよぉ」
フローネ「うぅぅぅ」
私はしぶしぶ鞄の中からそれを取り出す
理緒「こ・これわ!!
フローネ「え?」
理緒ネコさんセット!!?
フローネそんな大きな声で言わないで・・・
・・・恥かしい・・・
支給された鞄に入っていた武器は、何を思ったのかネコ耳とネコグローブとしっぽに首輪
理緒「フローネちゃん♪」
フローネ「はい?」
理緒「付けてみない?コレ」
フローネ「え・・・・・・えぇ!?
理緒「可愛いと思うんだけどなぁ」
フローネ「そ・・・そんな・・・理緒さんの方が」
理緒「私だとサイズが合わないんだもん、コレってフローネちゃんように作られたサイズみたいだよ」
フローネ「あぅ・・・」
理緒「さぁ  さぁ さぁ さぁさぁさぁ」
フローネ「えええぇぇぇぇ〜〜〜〜」



     *     *     *



理緒「可愛い・・・かわいいよフローネちゃん」
・・・・・・うぅ・・・
理緒「はぁぁぅぅ、カメラとか持ってくれば良かったなぁ」
フローネこ・こんなの撮られたら恥かしくて死んじゃいます・・・
理緒「どうですか?ネコさんになれた気分は?」
フローネ「どうって・・・・・・あれ?」
理緒「? どうしたの?」
不思議な感覚に包まれる・・・いや、違う・・・
ここに来てからあった周りの変な感覚が消えた?
フローネ「・・・フレイム」
ボゥ
すぐに手のひらに火が灯る
フローネ「出た・・・」
理緒「え?」
フローネ「魔力が戻った・・・」
理緒「すごい!!フローネちゃんは『ネコ耳マジシャン』だったの!?」
フローネ「そ・そのネーミングはちょっと・・・」

念のため一番つけて苦しい首輪を外してみる
フローネ「・・・フレイム」
再び唱える・・・が、
理緒「出ませんねぇ」
フローネ「えぇ」
やっぱり全部つけてないと効果がないみたい・・・
どうしよう・・・実を取って恥もとるか、恥を捨てて実も捨てるか・・・
理緒「恥も実も取ろうよ!!」
フローネ「え?」心読んだ ?
理緒「顔を見てればわかるもん・・・それに・・・」
急に理緒さんが真面目になる
理緒「こんな状況だもん、恥なんて気にしてる場合じゃない・・」
フローネ「あ・・・うん」
理緒「じゃ、決まりね♪」
・・・・・・まんまと乗せられた?
理緒「それじゃそろそろ移動しよ、いつまでもここにいてもしょうがないし」
フローネ「えぇ・・・そうね」
先輩にも・・・マックスさんにも・・・っていうか誰にも見せられないよ〜こんなの〜



フローネ「ダレかいる・・・」
理緒「え?」
突然フローネちゃんが声をかけてきた
人の気配なんて何も感じてないのに・・・
フローネ「隠れて」
理緒「う・うん」
誰かいるのかな・・・いるとすれば相当の達人だけど・・・
??「そこにいるの・・・理緒か・・・」
理緒「カノン君!?」
カノン「やはり・・・理緒・・・それにもう一人いるのか・・・」
理緒「よかったぁ、心配してたんだよぉ まぁカノン君がやられるとは思ってなかったけどね」
パン どん理緒「きゃっ」
何かの破裂音が聞こえると同時に何かの衝撃で横に飛ばされた
理緒「え・・・」
横ではフローネちゃんが厳しい顔でカノン君を睨んでいる
そしてカノン君は・・・
理緒「カノン君?」
カノン「このネコのお嬢さんに助けられたね、理緒」
そう言って銃口を(ネコの)フローネちゃんに向ける
理緒「そんな!?」
カノン「悪いが理緒には死んでもらう、そして君には少しの間眠ってもらう」
理緒「カノン君っ!?」
私がナイフに手をかけるとカノン君は銃口をこちらにずらした
パン
理緒「くっ」
それを辛うじて避す
相手の武器はエアガン、一発ごとにスライドを引く必要があるはず 連射は出来ない
こっちの武器はナイフに見えるけど仕込みがある・・・不意をつければ・・・あるいは・・・
カノン「スカウトナイフか・・・いいものを当てたな 理緒」
理緒「!?」
ガショッ
カノン「不意打ちをしようなどと考えないほうがいいよ」
再びこちらに銃口を向ける
フローネ「させません」
理緒「フローネちゃん? だめ!
フローネちゃんがカノン君に向かって駆け出した
カノン「くっ」
パンフローネ「スプラッシュ」
何もないはずのところから突如水が発生しカノン君に向かって流れ出す
麻酔弾はその波に飲まれて押し流される
カノン「なっ!?」
ぎりぎりのところでカノン君は水を避け、すぐにフローネちゃんと距離をとる
見たことのない攻撃方法のはずなのにそれを避けるなんて・・・さすが・・・

カノン「・・・まさか・・・君の名前は?」
フローネ「フローネ・トリーティアです」
カノン「!?・・・・・・マクシミリアン・アーセニック・・・」
フローネ「っ!?マックスさんを知ってるの?」
カノン君の呟きにフローネちゃんが反応する
カノン「やはりか、まったく・・・強敵だな・・・」
ガショッ
フローネ!!させません ゲイル!!
風がうなりを上げてカノン君に迫る
カノン「ちぃっ」
それを横に飛んで避ける
パスッ
その動きの止まった一瞬に私が銃弾を打ち込む が、
キィン
理緒「え!?」
・・・銃身で受け止めた?・・・
「ここは・・・引く・・・」
そう呟いてカノン君はその場から走り去ってしまった



理緒「それにしても、よく不意打ちに気が付いたよね お陰で助かったけど」
フローネ「何となくですけど、人の気持ちは読み取れるんですよ」
理緒「それも魔法なの?」
フローネ「うん」
理緒「便利だなー」
フローネ「そんなことは無いわよ 知らないほうが良い気持ちっていうのもありますしね」
理緒「ま、とりあえず不意打ちを食らう ってことはなさそうだね」
フローネ「・・・それより」
理緒「ん?」
フローネ「あの人 知り合いですよね?」
理緒「・・・・・・・・・・・・・・・・うん」
フローネ「・・・・・・・・・仕方ないですね」
理緒「へ?」
フローネ「言いたくないなら今はいいです 話せるときになったら話してください」
理緒「・・・あ・・ありがと・・・」
フローネ「でも、コレだけは聞いておきたいんですけど」
理緒「・・」
フローネ「次に会った時には・・・どうしますか?」
理緒「・・・・・・できれば・・・殺すなんていう選択は・・・とりたくないです」
フローネ「・・・それは非常に難しく、こちらの危険も増えますけど・・・それでもですか?」
理緒「・・・・・・うん」
フローネ「なら、しょうがないですね 何とかする方法を考えましょうか」
理緒「へ?」
フローネ「とりあえず、その・・亮子さんって知り合いと会うんですよね? それから考えましょう」
理緒「は?え? っと、、、うん    アリガト」

【残り87人】






第8話「一瞬の戦闘」

・・・・ちっ・・・・

心の中で舌打ちする せざるをえない

カノン「一人かい? リョウコ」
亮子「カノン・・・あんた、また戻っちまったのかい?」
カノン「あぁ 今回ので解ったろ?歩君の行動に何の意味もなかったってことが」
亮子「・・・否定は出来ないけどね、でも弟君もまた何かしようとするんじゃない?」
カノン「同じさ、・・・なら、ココで仮初の正気の時間なんて終わらせる」
亮子「本気・・・みたいね」
カノン「・・・・・」
亮子「・・・・・」

沈黙の時間が流れる
相手はエアガン持ち
大して私は素手のみ
さらに相手は、あのカノン・ヒルベルト『翼ある銃』
勝ち目なんてほぼ0
逃げる事だって出来そうに無い
カノン「行くぞ・・・リョウコ」
カノンの体が前に傾くと同時に、数メートルを一息で詰める

本来 銃器はリーチの長さが長所だ
普通は距離を詰めようなんて考えない
・・・普通の戦闘なら・・・
私ならこの程度の距離があれば初弾を避せる可能性が高い
加えてエモノは連射の効かないエアガン
上手く立ち回れば次弾だって避せるかもしれない

・・・勿論相手が相手だし、そう簡単な事ではないが・・・

カノンとしても無駄弾は控えたいだろう・・だからこそのインファイト
そして、こちらとしても望むところだ
遠距離から打たれては遅かれ早かれ負ける
そして、その距離があればこちらはなにもできない
だが、懐に飛び込んでくれるなら何かできるかも知れない
意を決してカノンの動きにあわせて、体を動かし始める

カノンの銃を持っていないほうの手が、一直線に喉元へと伸びる
それを右手で払いながら、上体を左に傾ける
それでも皮膚をかすめ、微かな痛みが走る
亮子「しっ!」
避ける動作から流れるように体をひねり、体重を乗せた回し蹴りを放つ
渾身の力を込めた左足は
軽く左腕に受け止められてしまう
と、同時に思い切り片足が放り上げられる
不恰好に空中で一回転しつつも、なんとか4つんばいで着地する

カノン「終わりだ」

その声に反射的に目の前の男を見上げる
銃口はまっすぐ眉間に向けられ、、、引き金が、、引かれた
パン
反射的に動いていた左腕に針が着弾する
ほとんど無意識に針を、周りの肉ごと摘出する

亮子「くそ・・・麻酔・・か・・・」
意識が朦朧とする
気合を入れれば何とか寝ないで済むかもしれないが
目の前にはコイツがいる
・・・くそ・・やっぱダメか・・・
カノン「サヨナラだ リョウコ」
一歩カノンが前にでる
と、その直後 カノンは大きく一歩 後ろにとんだ
その直後、誰もいなくなった空間を何か小さなモノが薙いだ
カノン「少し、遅かったか」
それだけでカノンの殺気は一気に消え去っていた
カノン「また 会おう」
そう良い残してカノンはその場から消えた

視界の端に理緒を見つけると安心し
一気に襲ってきた眠気に身を任せた

【残り87人】








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