きもだめし 後編



すでに数回の往復を繰り返していた
外のゾンビの数は思っていた以上に多く いくら殺しても減った気がしない
だが実質魔力が無尽蔵にあるので時間さえかければなんとかなった
『火』はアスカリトとの戦闘の後すぐに出せるようになっている
周りの森に引火しないだけ気を付け体内から燃やす
敵の動きは単調でそれだけで苦も無く倒していけた

そしてまた魔力がほとんど無くなりフローネのところに戻る

フローネさんコレが最後です、またお願いしますね
最後って後どれくらい残ってるんですか?
最後の一匹だけ残してあります 元に戻してみましょう
あっ・・・すいません無理言って
いえ、いいんですよ 僕がやりたいんですから。それじゃお願い
そう言って右手を握手を求めるように差し出す
フローネはその手を少し見るとマックスの顔に視線を移す
? 何?
あの、聞いてもいいですか?
ん?
さっき 最初にここに来た時言いかけた言葉ってなんですか?
あっ・・・あれはその・・・魔力を補給して欲しいとか言いましたよね?
はい、でもそれ嘘ですよね?
・・・
・・・だめですか?
言う時はもっとかっこいいシチュエーションで、って思ってたんですけどね
・・・はい・・・
僕はフローネさんが好きだから守りたいって思うのも当然なんです
目をつぶって一気に言った
少しの間フローネの反応を待っているとフローネが言った
そのまま眼を閉じててください
あ はい
魔力を渡しますから手を出してください
言われたとおりフローネのほうに手を差し出す

ぐいっ

急にフローネに手を引かれ前かがみになる
!?
口に何かが触れ、そこから魔力が流れてくる
魔力の流れが止まり離れる
・・・行きましょ、わたしも見ていていいですよね?
フローネが少し照れながら聞いた
ぁ・・・ぅん・・・あっ、でもちゃんと結界の中にいてくださいね


洞窟のすぐ外にゾンビが固まっていた
片方にしかない目だけはギョロッとこっちを睨んでいる
あれ?動いてない?
金縛りをかけておいたんです、さすがに一匹にしたら逃げるかもしれませんから
頑張ってくださいね
はい、ここより先に行かないでください ここに結界がありますから


ゾンビに手をかざし魔力をゆっくりと送り込む
しばらく中を探っていくと何か妙に人為的な感じのする部分を発見する
そこを一度壊し、そして修復してみる
するとゾンビから邪悪な気が消えていった
だが完全に成功はしなかった
気は元に戻ったものの体の修復が追いつかず
そのままその場に崩れ落ち 動かなくなった
ダメ・・・でした・・・
でもこの仔最後に言ってましたよ『アリガトウ』って
自分を責めないでください、悪いのはアイザックさんでしょう?

くっくっく ずいぶんと悪者にされたもんだな
え?マックスさ・・ん?
オレは・・・アイザック・アーセニック

自分の口から自分の意思とは関係なく声が漏れる
手も足も、身体中が自分の物で無くなってしまったかのようだ

まさかとは思ったが、こんな愚行を犯すかマックスよ
何の事だ?)「何の事!?
自分の声は出ない フローネが変わりに自分の思っていた事を言っていた
こんな山犬などほおって置けばいいものを
まぁそのおかげでこのトラップが役にたった訳だが
この犬に魔力を送り込んで治そうとしたろう?
そうしたら魔力を逆流し貴様を操ろうとしていたのさ

俺をのっとってどうする気だ? フローネには手を出さないでくれ
なんでその仔を治そうとするって分ったの?いっぱいいたのに
くっくっく二人同時に違う質問をするな
な・なんのこと?
マックス、俺はお前をのっとっているんだお前の考えている事も聞こえる
まず女の質問に答えてやろう
こいつ以外にも何匹か候補はいたのさ
そいつらは少しはなれ攻撃を仕掛けないように命令しておいた

マックスさんはなんて?
『俺をどうする気だ? お前に手を出すな』とさ
マックスさん・・・

俺がここに来た理由はひとつ 再度勧誘に来た、言ったろう『また来る』と
俺の答えは変わらない!! あれ?声がでる
いちいち通訳するのは面倒でな、俺が話すとき以外はお前が話せるようにした
はっきり言って口だけが思い通りに動くというのはかなり変な感じだった
もう一度言う、俺はお前に従う気はない
それで仲間も助けてくれ・・・か?虫が良すぎないか?
俺はマックスよりもはるか上に立っている・・・なぜお前の言う事を聞く必要がどこにある


・・・・・・

そうだなどちらかひとつをかなえてやろう、お前が決めろ
俺の協力者になれば今仲間は助けてやろう
そして、女を殺せば俺に協力する必要は無い、この術も解いてやろう
今から体の主導権を20分だけ返す その間に決めろ
俺の下に来るか・・・こいつを殺すか
俺の下に来る場合は女を逃がせ・・・さぁ・・・・・・どうする?


突然体の重さが足にかかり支えきれずに膝をつく
マックスさん大丈夫ですか?
フローネが駆け寄ってくる
大丈夫・・・って言うのかな?この場合

どう・・・します?
控え目にフローネが聞いてくる
・・・逃げてください
え?
とりあえずアイザックの所に行きます、隙を見て刺し違えるしかないでしょう
無茶ですよ、もしさっきの術が残っていたら読まれるんですよ
それは・・・ん?
どうしました?
今一瞬左手の感触がなくなりました
それって・・・
『その通りだ』とでも言うつもりなんでしょうね
マックスさん・・・私を殺して自由になってください
それこそダメですよそれで術を解く保障はどこにも無い
でも・・
どっちを選んでも駄目か・・・ジレンマだな
別の道・・・2択以外の道を・・・ぁ


マックスが腰のナイフを抜き取る


ナイフをゆっくりと振り上げ 小さく呟く
ゴメン

そしてそのナイフを


振り下ろした


ザスッ
マックスさん!!
マックスの手は振り下ろす途中で止まっていたが止められる直前でナイフは投げられ
マックスの腹に刺さっていた
くっまさか本当にやるとはな、しかもご丁寧に毒まで流しやがって
あ・あなたは?
ふんっ 貴様がマックスを惑わしたのだな・・・まぁ・・・いい・・・俺1人でこの世界を
少しの間無くなっていた体の感覚が戻ってきたがすでに指1本動きそうに無い
フ・・ロ・・・・ネさ・ん
マックスさん? マックスさん?
ごめ・・ん・・・・・これ・・し・か・・・・おも・い・・つか・・・・な・・

すでに口すらも動かない
フローネがなにか叫んでいるような気がするがそれすらも聞こえない
意識だけははっきりとしているのに
身体は泥のようだ
・・・
これが





マックスさん! マックスさん!
いくら読んでもその身体は何の反応も返してくれない
鼓動も今にも止まりそうなほど弱い

ガサガサ
マックス!!
突然木の上から人が降りてきた
その姿にフローネは見覚えがある

少しぼろぼろになりながらも、いつもの灰色のコートを着ている
いつも被っていた帽子はどこかに消えてしまったのか 無い
幾度かBFの前に現われ、捉えどころの無い戦闘を繰り返したその男

あ・あなたは アスカリトさん!?
「詳しい話は後です、とりあえずマックスを起こしましょう」
は・・・・・はい!

アスカリトはテキパキと魔方陣を書き魔力石を定位置においていく
作業をしながら口を開く
「この術は1年がかりで魔力を封じ込めた魔方陣の中で魔力を回復しながら行なう物です
貴方がいればこそ今できるんです
お手を貸して下さい 膨大な魔力を消費しますので常に魔力を送り続けてください」
わかりました

マックスの身体を魔方陣の真ん中に横たえ少し離れた場所に座る
そしてフローネには聞いた事も無いような呪文を唱え始める

一言一言発するたびにアスカリトの魔力が失われていく
フローネは間に合うかどうかぎりぎりのスピードで魔力を送る
数分の作業が数時間のようにも感じる
アスカリトは呪文を唱えるのをやめゆっくりと立ち上がりマックスの脇に立つ
「フローネさん マックスをよろしくお願いします・・・私の分も」
私の分って?

突然アスカリトは自分の腹 へそ臍のあたりに手を突き刺した
躊躇することなく手首近くまで腹の中に入っていく
当然その手との隙間からは血が流れてくる

ア・アスカリトさん何を?
「私の魔力を・・・命を・・・マックスに渡す
マックスの魔力はすでに崩壊している・・・これしかない」
それじゃアスカリトさんが
「私の生きる目的は一つを残して果たしました
最後のひとつはマックスの成長を後押しする事 それを今・・・果たす
アスカリトが腹から手を引き抜くとその手からは目を開けていられない程の光が溢れた
アスカリトはその光をマックスの腹に埋め込む
「これでお別れです」
そう言ってアスカリトはフローネの手を払い距離をとる

途端にアスカリトの輪郭がぼやけて始めた
「魔力はこの身体を繋ぎ止めている物、それが消えれば私は完全に消滅します」
そんな
「それではくれぐれもマックスをよろしく・・・孫の顔が見れないのが残念ですね
シュウウウウウウウウウウウウウウウ
その言葉を最後にアスカリトの身体は最初からそこに無かったかのように消え失せた



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