ここか・・・
BFは高さ10メートルほどの崖の下に集まっている
目の前の岩壁にはぽっかりと穴があいている
10メートルと言う高さは間近で見るとかなりの高さに感じる

この洞窟はかなりの深さがあり その昔は子供達の絶好の遊び場だったらしい
しかしいつからかこの山自体に魔物が住み着くようになり近付く者は減っていった
だが最近『この洞窟に宝物が眠っている』などという噂があっという間に広まり
この洞窟に入る者が増え
そして行方不明者が増えていった

しかしそれらの多くは古くからこの町に住んでいる訳ではない
宝の話を聞きつけて来たような者ばかりだったので大きな問題にならなかったが
昨日子供達数人がこの山に向かっているのを目撃されそれから行方がわからなくなった
そこでBFのこの子供達を捜索するように命令が入ったのだ


こ・こんなところにはいるの?虫とかいたらどーしよー
ルーティが入りもしないうちから弱音を吐いた
我慢しろ こんな穴が恐くてこの仕事やってけんのか?ほれ いくぞ
ルシードが言うとルーティ以外は洞窟に入っていった
ま・まってよ〜


洞窟に入ってしばらく歩くと道が左右に大きく分かれている
分かれ道か・・・よしとりあえず二手に分かれて進むぞ
え?固まってないと危険じゃない?この先も分かれ道があるかもしれないし
ルシードの提案をバーシアが反論する
そうかぁ?
不満そうにしているルシードにマックスが付け加える
二手に分かれて進むには数が足りませんが、部隊を分けるのには賛成です
そりゃ矛盾してないか?
いえ、これだけ狭い洞窟だと全員固まっているメリットはないし逆に危険ですから
むしろ部隊を二つに分けて数10m離れて行動した方がいいと思いますよ
一方が前を進み、そしてもう一方が後ろを警戒しながら後を歩く
これで万一挟み撃ちがあっても防げるでしょう


そうだな、それじゃメンバー決めるぞ、俺の部隊は俺が指揮するから
もう一方は・・・マックス頼む

了解
あと ビセットはマックス班、バーシアはこっちだ
おう」「あいよ
ルーティはこっちでフローネはマックスと行ってくれ
うん」「はい
良しそれじゃ確認するぞ、俺とバーシアとルーティがA班で
マックスとビセット フローネがB班だ。 で、前と後ろどっちがきつい?

後ろを確認する方がきついでしょうね、前の班は分かれ道を覚える必要がありますが
よし、それじゃA班は後衛、B班は前衛だ
俺は面倒な事覚えたくないしマックスとフローネで道を覚えてくれ

おれもB班だぞルシード
ビセットが反論するが
お前にゃ無理だろ
んだと〜
ほ〜ら 喧嘩する暇があったらさっさと終わらせましょ
2人に呆れつつも、バーシアがめんどくさそうに急かした


分かれ道なんてほとんどねーじゃん
ビセットが呟く
実際最初に分かれてから結構歩いている気がするが全然分かれ道もない
が、道はかなり曲がっている為 後衛の灯りを確認する事は出来ない


あれ?
そういった矢先 目の前の道は左右に分かれていた
後ろを進むA班に連絡を取り慎重に進んでいく


な〜んか ほんとに分かれ道無いね、この分じゃそろそろ行き止まりじゃない?
ビセット君はさっきから文句ばかり言ってる気がする
ん?
どうしたマックス?
行き止まりです
引き返しましょうか
フローネさんが通信機を渡してくれる
そうですね・・・・・・こちらB班行き止まりにあたりました これから引き返します
・・ザ・・了解・・・ザザ・・プツ



あ〜あ〜結局最初の分かれ道に戻る羽目になるなんて・・・
またビセット君は文句を言っていた
もしかしたら沈黙のまま歩くのが嫌なのかもしれない
自分もフローネさんも率先して話をするタイプではない
すると自然にビセット君の独り言になってしまうのかもしれない

とはいえ二人とも同じ気持ちではあった
結局あの後全ての道が行き止まりで最初の分かれ道まで引き返したのだ
なぁマックス もう部隊を分けてる意味もそんなに無いんじゃないのか?
他の分かれ道はすべて見てきた訳だし

いえ、やっぱりここは戦闘をするには狭すぎますから
固まってたら万が一何かあって全滅するかもしれませんし
それに洞窟の外から魔物が来ないとは限りませんしね


ふーん なんにしても暇だな〜そろそろなんか出ないかな〜
ん?あれは・・・
マックスが何かに気付いてライトを向ける
そこには人が倒れていた、気のせいかもしれないが少し動いたようにも見える
生きてる! 助けなきゃ!!
ビセットが倒れている人に駆け寄る
慌てて叫ぶ
ビセット君とまれ!! 何か・・・何か変だ。罠かもしれない
おい大丈夫か?
マックスの静止の声も聞こえてないようで倒れた人に手をかけ顔をのぞく
う・うわぁっ!?な・なんだこいつ?
どうした?
マックスもナイフを片手に近付く フローネも後に続く が、
ボフッ
横になった人が突然煙に包まれる

慌てて風の魔法で煙を払ってみるとそこには誰もいなくなっていた
マ・マックスさん どうしましょうか?
フローネが不安そうに尋ねる
・・・A班に連絡を
はい
フローネが通信機を取り出すと同時にA班から通信が入った

こちらルシード、どこに隠れてやがったのか、かなりの大群が来やがった
慌ててフローネから通信機を受け取る
合流しましょうか?
いや いい、はっきり行って一匹一匹は全然強くないんだが斬った感触がなんか変だ
これは何かしらで出具現化された幻だろう、だから敵の頭を叩け
この群れの向こうか洞窟の奥のどっちかにいるはずだ 奥は頼むぞ!!

通信機の向こうではかなりの数の魔物と戦う音がしていた
了解、ただこっちでビセットが敵に連れ去られました
なにぃ!? あの馬鹿・・・マックス頼むぞ
分ってます
バーシアを送ろうか?
いえ、そっちがきついでしょう 敵を倒しながら少しずつ全体で奥に進んでください
解った、切るぞ
はい、頑張ってください」ブツッ

進みましょう あんまり僕から離れないようにしてくださいね
はい

少し歩くとフローネがマックスに訪ねた
今ルシードさんたちを襲っている敵ってどこから来たんでしょう?
・・・もし具現化された敵だったらどっから現われても不思議はありませんよ
今、急に後ろから襲われるかもしれませんし・・・ッ!? くっ

突然フローネの後ろに魔物が出現した
一瞬で気付いたマックスがナイフを突き立てる
サクッ
ん?
ナイフからは魔物を斬った感触がほとんどしなかった
まるで紙か何かを斬ったような手応えだった
これは確かに変な感触だな・・・気を付けながら進みましょう
そうですね


しばらく歩くとマックスが口を開く
さっきの魔物・・・『後ろに来るかも』って話してなかったら気付かなかったでしょうね
ホント危なかったですよね 有難うございます
マックスは照れて話題を変えた
いえ・・・それよりビセット君があそこで襲われたんだからもうすぐ奥だと思うんだけど

!?
二人は同時に固まっていた
洞窟が完全に行き止まりになっていたのだ
そんな・・・今まで分かれ道なんて無かったのに・・・ビセット君はどこに・・・
・・・さっきから思ってたんですけど
え?
ずいぶんタイミングよく行き止まりになってる・・って関係ないですよね こんなこと
・・・・・・・・・っ!! いや それだ。さっきから誰かが『奥』とか『行き止まり』といった直後
実際に行き止まりになっている・・・これはきっと偶然じゃない
さっき人が倒れてたのも、それが罠だったのも、A班が襲われているのも
突然敵が現われたのも・・・全部想像した事が現実に起こったんですよ

どこまでが幻なんでしょう・・・
もしかしたら分かれ道すらも幻かもしれませんね、そしてこの曲がりくねった道も
思えば道が曲がっているはずなのに無線機に雑音が全く無い、クリアーすぎだ・・・
もっと早くに気付くべきだったのに・・・

それじゃ、ビセット君は?
・・・可能性として二つ・・・ひとつはこの奥、きっとこの壁は幻でしょう
そしてもうひとつはあの場所に取り残されているのかもしれません

え?
幻が見えるということは『そこにいない』という幻を見せられているのかも知れません
ということは今まで行方不明の人たちは・・・
今まで通り過ぎていたのかもしれませんね、壁の向こう側とかにいたのかもしれません
とりあえず奥に進みましょう、この幻を操る物を倒さないと動きようが無い

奥って・・・この壁の向こうですか?
はい、ここに壁は無い

二人は目をつぶり、手をつないで壁の方へと歩き出す
(一歩、二歩、三歩、四歩)
フローネの足が止まる
目をつぶっているので見えないが、先ほどまで見えていた壁はもう目の前だろう
不安になるのも無理はない、が
信じて
手をぎゅっと握る
フローネも握り返してきて また前に進み始めた
壁の感触は無かった



目をあけると開けた場所に立っており前からは部屋のような場所から光が漏れている
後ろを見ると壁になっていてさっきまでいた場所が見えない

扉が有る?、こんなところに・・・
注意しながらマックスがその隙間から中を覗く
どうです?
フローネが目で訪ねてくる
いえ、なにも
マックスは静かに首を振り
部屋の中を指差し 突入する意思を伝える
3,2,1
指を折っていきカウントをとる
バンッ

扉を一気に押し開き突入する
『ようこそ 待っていました、初めてのお客様ですね』
だれだっ!?


『私は夢をつかさどる神【夢限】、今起きている事件・・・すまないと思っている』
お前・・・いや、貴方は
嘘は言っていないようだ、自然に発せられている神々しいまでの光があふれる
そして聴覚で無い感覚語りかけてくるかのような声
心の中に声が直接伝わってくるようだった

『気付いたからここに来たのであろうが、この洞窟全体に私に力が広がり
ここ全体が不思議な空間になってしまっていた』
今まで行方不明の人たちはどうなったんでしょうか?
『彼らはおそらく幻に惑わされ、私の魔力の影響を受け倒れたのであろう
君達は元々魔力が高いからそれほど問題は無いだろうが
魔力の無い者にとって強力すぎる魔力は毒のようなものだ』
貴方には彼らを助ける事は出来なかったのですか?
いつのまにかマックスの脇に立っていたフローネが訪ねる
『・・・すまない、私は天界で犯した罪を償う為にこの部屋に入ったのだ
私はこの部屋に縛り付けられているようなもので出る事は叶わない』

突然思い出したフローネが訪ねた
あ、センパイ達は?
『・・・彼らは未だに幻の魔物と格闘しているようだ
どうあっても幻で死ぬ事は無いから大丈夫だろう』
幻を消してあげる事は?
『先ほど言ったように私は罪人だ、その力を使う事は出来ないのだ』
そうですか・・・

『そこで頼みがあるのだが・・・キミには魔力障壁(マジックウォール)を張る事が出来るだろう?』
? はい
『この魔力の漏れをとめるためにその力を使って欲しい』
・・・ですが僕の魔力ではそれほどまでに強力な魔力を遮断できません
『それは単純に魔力が足りないからだ他から補えば可能だろう』
ですが何らかの方法でBF全員の力を集められたとしても貴方の魔力には敵いません
『いや、そこの・・・フローネといったかね? 彼女の力があれば十分可能だ』
わ・わたし?
『あぁ、君はこの世では珍しい外部性魔法能力者だろう』
外部性魔法能力者?
耳慣れない言葉に二人同時に聞き返してしまう
『人の魔力の使い方には個人差があるものの大きく2つに分けられる
ひとつは主に自分の精神力を使い魔法を使う者
そしてもうひとつが自然から魔力を引き出し自分の魔力に変えられる者
前者を内部性魔法能力者、後者を外部性魔法能力者と呼んでいるのだ
後者は現代ではほとんど現われない・・・今現在では彼女一人ぐらいなものだろう
そして外部性の者は例外なく他人には無い特殊な能力思っている』
動物と会話できる・・・
マックスが呟く

昔フローネの能力をマックスの毒のような個人の特殊能力と言った事があった
だがその時 不思議に感じてもいた
魔学にはその様な能力は前例が無い
個人的能力と入ってもそれほど種類があるわけではなく同じ能力者であることが多いのだ
魔学の歴史上ただ1人が持っていた能力などというものは無かった

『正確に言うと「言葉を持たぬ者とも意思を通わせることが出来る」・・・だが
その能力は外部性の証だ
この世では古来より犬の鳴き声はたいま退魔の力があり
キツネやタヌキは化けるほどの魔力を持っている
この世の生きとし生けるもの全てに魔力は宿っている
そして体の中から外に向かって発せられる声には魔力が込められている
外部性はその魔力を感知し、相手の意思を感じる事が出来る
そして自分の魔力、つまり意思を相手に送る事が出来る
センス次第だが枯れることの無い無限の魔力を使う事も可能だ』

でも普段はわたしよりルーティちゃんのほうが魔力が多いですよ
『そのルーティというものが内部性としては大きな魔力を持っているからだろう
そして君自身が力を使いきれていないからだろう。意識していればすぐに慣れる
さて、皆そろったようだな』
え?

バンッ
突然ドアが開け放たれる
BFだおとなしくしやがれっ・・・ってだれだあんた?
ここまで神々しいオーラを放つ方にもその口調・・・さすがですねルシードさん


全員そろったところで夢限がこれからの事を話し始める
『わたしに魔力障壁を張ればこの洞窟は程なく元の洞窟に戻るだろう
そうすれば今まで行方がわからなかった者達も容易に発見できる
・・・ほとんどはもう死んでしまっているが、昨日来た子供は大丈夫だろう』
後ビセットのアホも助けねーとな

ところでさ、あんた天界で罪を犯したってどれくらいここにいるの?
バーシアが訪ねる
『この世の時間だと2000年ほどこの洞窟にいることになるだろう』
2000!?
『とはいえこの部屋は天界と同じでこの世とは時間の流れが違う
それほど長い期間ではないよ』
え?ってことはここにいたらやばいじゃん
『いや、その扉が開いてるということは今はこの世の流れと同じになっているはずだ』
ってことはこの扉が開いていると2000年いなくちゃいけないの?
『おそらく天界で今何か処理しているだろう 気長に待つさ
駄目なら2000年ここにいるのも面白い』
・・・気ぃ長げぇな
ルシードには無理だろうね
ほっとけ
『さて、そろそろ質問もいいだろう。子供達は衰弱しているだろうからな』
そうだな、それじゃマックス・フローネ以外はいったん洞窟を出るぞ
『それとルシード君この洞窟を閉鎖するように言っておいてくれ
もしまた何か無いとも限らないからな』
わかった、すぐに手配しよう
『有難う、君たちに良い夢を』


ルシードたちが出て行きマックスとフローネと夢限だけが残る
結局どうすればいいんですか?
『まずフローネ君が魔力を集める・・・わたしから魔力が漏れているので十分すぎるだろう
そしてその魔力をマックス君に渡し、その魔力を使い魔力障壁(マジックウォール)を張ってくれ』
魔力障壁(マジックウォール)はどこに張れば?
『私自身に張ってくれればいい』
え?でも人に張ると死んでしまいますよ?
『心配するなここにいる私は神の影、実体は無い』
あの・・・
フローネがおずおずと聞いた
魔力はなんとか集められそうなですけど、魔力はどう渡せばいいんですか
『あぁ、キスしてくれ』
えぇっ!?」「えっ!!?
『と言いたい所だが、別の方法もある。多少効率は落ちるが問題ないだろう』
どんな方法ですか?
『手に傷をつけ、傷を合わせるように手をつないでくれ』
では通常の魔法でも効率が変わるんでしょうか?
『さっき言った通り口が一番魔力を放出しやすい
が、それは先入観無しの場合であるから
すでに決まった魔法の使い方があるならばそちらの方がいいだろう』
そうですか・・・それじゃそろそろ始めましょうか、フローネさんも良い?
はい
お互いの手のひらに傷をつけ 手を繋ぎ 意識を集中する
手を通してマックスの体内に信じられないほどの魔力が流れ込んできた



夢限に結界を張ると洞窟はかなり変化していた
部屋を一歩出るとだだっ広い通路になり
よく目を凝らせば出口すらも見えてしまいそうなほど何もない大きな空洞だった
子供達とビセット、それと辛うじて生きているものだけを救助し
後は保安局に連絡して任せる事になった


そして数日後には全ての作業が終了し洞窟は完全に封鎖され
外から見ると洞窟と解らないように偽装された

このあと段々と宝が眠っていると言う噂も消えていき
この洞窟も長い時間の中で忘れ去られる事になる


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