第13章「ローレンシュタイン音楽祭2 後編」



すでに二人は決められていた持ち場についていた
場所は会場の外
正門前でもなければ裏門の前でもない
中途半端な位置にいた

会場のほうから大きな歓声が沸きあがる
意始まりましたね・・・音楽祭
来ますかね?
マックスが何となく聞いてみる
おそらくは、なんだか嫌な感じがしますし
ですね・・・

二人はさっきから不思議な感じがしていた
うまく言い表す事は出来ないが
何か強力な魔力を持つ者のプレッシャー威圧感のような物を感じていたのだ

何か起こったらすぐに移動しましょう。正直かれら自警団だけでは荷が重そうですから
でも・・・
フローネが控え目に訪ねた
こっちに情報が回ってこなくて・・・気付いたら終わりってことは?
大丈夫です、この魔力の糸を会場の周りに張り巡らしてありますから
どれくらいの数でどれほど魔力を持っているかも把握できます



しばらくすると糸から反応があった
ん?・・・来ました
どこですか?
正門の方です・・・あれ? な・・・なんだこの数・・・10や20どころじゃない!?
囲まれたんですか?
いえ、一方から数で押すって感じです 正門はローレンシュタイン自警団か
行きましょう、彼らでは持ちこたえられない

はい

正門に近付くにつれ音楽祭の歓声とは違う声が混じってきた
中には魔法を唱える声や悲鳴も混じっている
うわぁぁぁぁぁーーー
一人の団員が魔物に襲われている
すぐに弓を取り出し矢を射る
ザスッ
「グゥッ・・・」

一撃でしとめて周りを見渡すと さっきよりも悲鳴が多くなっている気がした
あまりの数に押され気味なのであろうが
それよりも気になるのが彼らの戦い方だった
我慢できずに大声で叫ぶ
一対一で戦おうとするな、手柄を考えて戦ったら死ぬぞ
これは実践なんだ、数人で固まり一匹ずつ確実に倒していけ

そう叫びながら次々と矢を射て仕留めていく
フローネも傷ついた者たちに回復魔法をかけて回る

そうしているうちに突然後ろから怒鳴り声が聞こえた
貴様らぁ、なぜここにいる!貴様の持ち場はここじゃない!ここは我々の持ち場だ
そこまで言うのなら、お前が自分で兵達を守るか、
しっかりと指示を出しておけ、さっきの戦い方は何だ?お前の指示か?

五月蝿い!貴様に言われうるまでも無い、持ち場に戻れ!ここは我々で十分だ
あんた ちゃんと物見えてんのか?
「なにぃ?」
あんたは魔物と戦って市民を守るのと、オレたちBFと戦って威厳を守るの、どっちが仕事だ!!
「くっ」
それに俺にはあんたの命令を聞く義務は無い
言いながらもマックスは矢を打つ手を休めない
「何だとぉ貴様は俺の部下――」
形式上はそうはなっているが、非常時と判断した場合
BF独自の経験に基づいた行動を取っていいことになっている

「くっ・・・」
見ると兵士達の動きがさっきまでとは明らかに違っていた
言われたとおり数人でグループを組み、そのグループ同士でも連携していた
よし・・・魔物の数も大分減ってきたしもう大丈夫か・・・ん?
再び糸から魔物の反応を感じる
急いでフローネの側に行き 耳打ちした
フローネさん裏門にここ以上の大部隊が現われました こっちは大丈夫でしょうから
はい、急ぎましょう
団長!ここを離れます、さっき言ったこと忘れないでください
指揮官の役割は皆を死なせない事だと僕は考えていますから



マックスとフローネは会場の脇を走っていた
ごめん、フローネさん疲れたでしょ?
いえっ・・だいっ・・じょうぶ・・・ですよ
急ぎます、おぶさってください
え?いえ、わるいですよ
いいから、裏門の敵が多すぎるから急がないと
予想通り そういわれるとフローネも断れずにおぶさった
そのままマックスはさっきよりも早く駆け出した
す・すごいですね、わたし重いでしょ?
いえ、それに僕は4歳から17歳まで毎日一日中訓練してましたから

あの・・・なんで団長さんに魔物の事伝えなかったんですか?
あいつに教えたら、兵達を放っておいて裏門に行きそうでしたから
・・・そうですね
もうすぐ・・・裏門です


少し手前でフローネを降ろし 走っていったのだが
兵達はみな奮闘していた
こちらの方は一人一人統率が取れていて互いにカバーし合っている
驚いてしばらく見ていると後ろから声をかけられる
どうしたBF? お前の持ち場はここじゃないぜ
突然かけられた声に驚き振り向く
なんてな、あんな持ち場に素直にいられねぇよなぁ
あなたは・・・コーレイン兵士団長!?

コーレイン兵士団長・・・エンフィールドからの援軍を率いている人で
会議ではほとんど口を挟まなかったので、どういう人かよく分らなかったが
どうやら結構いい人のようだ

そんな長ったらしい名前はよしてくれ、マイトで十分だ
見ての通りこっちは平気だ、それよか
出来るなら正門の頭の固い団長をフォローしてくれねぇか?

マイトは頭を掻きながら小さな声で話す
一応団長の悪口は言い難いのだろう
そちらはもうだいたい終わりました、きっと彼らでも守りきれるでしょう
そう思ってこっちに急いできたんですけど・・・どうやらこっちはもっと平気みたいですね

マックスは少し笑いながら話した
まーな・・・で、どう見る?この攻撃

マイトは急に真面目になってアーセニックに問い掛ける
きっとこちらの顔もまた本物なのだろう

正門への大規模な攻撃、その後時間差で裏門をさらに多い戦力で攻撃
・・・もしかしなくても陽動でしょうね、正門の攻撃は
まぁ、正門の方は陽動だけで戦線が崩壊しそうでしたけどね

あの人は・・・あの人自身は強いんだが、部下達にも同じ強さを求めるんだよなぁ
それじゃあんまし指揮官には向いてないですね
マックスがはっきりというとマイトは苦笑いを浮かべて 話をそらす

それはともかく こっちの部隊が本隊ってことだ・・・つまり
これだけに大部隊を動かす事のできる大物がこっちにいる可能性が高いですね
だな・・・久々に本気で戦わないとなぁ・・・あの団長もいて欲しいところだけど・・・
団長って強いんですか?
あぁ、強い。俺はあの人には勝てねぇ
そうで・・・ん?
糸から反応が来た
マイトさん来ましたよ・・・かなりの大物です・・・距離は500mって所ですね

兵達を下がらせマックス、フローネ、マイトの3人で待ち構える
もうすぐあのかげから現われますよ
くっ・・・すげぇ威圧感だな・・・そっちのお嬢さんは大丈夫か?
はい・・・平気です
さすが BF だな・・・俺は結構辛いぜ

ガサッ
突然茂みから魔物が2体飛び出してきた
が、その直後1体には額に矢が刺さり
もう1体はマイトにより真っ二つにされていた

気付くと数十m先に女の子がいた
足元を見ると僅かだが浮いているようだ
お前はっ!?
マックスは驚いていた
前にいる女の子は外見だけ見ればただのかわいい女の子だ
ただし自分が張り巡らせた魔力の糸はこれが魔物達の親玉だと言っている

目の前の少女はこっちをじっと見ながら口を開いた
あたしローラ、ローラ・ニューフィールド お兄ちゃんたちは・・・
お兄ちゃんたちはどうしてワタシの邪魔をするの?

最初は普通の少女の声だったが次第にどす黒い声が混ざってくる
死んじゃえっ!!
ローラが手をかざすと氷の刃がマックスを襲う
とっさに横に転がり刃を交わすと すぐさま矢を(つが)える

マックスさん ダメです!!
フローネが突然叫ぶ
っ!?
マックスはその声を聞き 矢を消すとローラと距離をとる
彼女は何かに操られているみたいです
多分予言で言ってた女の子じゃないかと

じゃぁ・・・どうすれば・・・

がさっ
「くっやはりお前らだけで手柄を立てようとしてやがったな
どけ!こいつは俺がしとめる
突然団長が一人で現われマックスたちの前に出る
待ってください!団長、あの娘は操られているんです
「あいつ一人を助ける為にほかに犠牲が出ても構わんと言うのか!?」
マックスが必死に止めようとするが団長は聞く耳すらもたない
そうじゃありません、うまく言えませんが目の前にいる子を犠牲になんて出来ません
それが貴様の甘さだ!こっちには貴様と問答している暇はない
そう怒鳴りローラの方に駆け出そうとする
マックスは黙って団長に向けて魔力を放射した
「むっ?何だ?う・動けん!?」
マックスは動けなくした団長を無視しローラに話かける

ローラ!お前は何がしたくてココに来たんだ?
お兄ちゃんはローラの話し聞いてくれるの?
ローラと名乗る少女の声はどす黒さが消えていた
あぁ、話してくれるかい?
ローラ寂しかった それで懐かしい香りのする人を見つけて,その人を探しに来たの
だれだい?
この子

ローラが手をかざすと、そこに突然 見覚えのある人が現われる
ネートッ!?」 「ネートさん!?
思わずマックスとフローネは叫んでしまう
ローラが立っているところの少し前にネートが出現したのだ
え?あれ?ここは・・・ワタシ・・・
見つけた、懐かしい香りのする人・・・そういえば
ローラがマイトを指差す
あなたからも・・・香り・するなつかしい・・・
と、フローネの前にいたマイトは瞬時に消えてしまい
ネートと同じようにローラのすぐ近くに移動させられる
なっ・・・くっ・くそっ動けん
マイトはいろいろ動こうともがいてみるが首から上しか自由に動かない

ローラ!なぜ二人を捕らえるんだ?
だって 寂しいんだもん友達になってもらわなくちゃ、お話いっぱいしたい
そのために二人の自由を奪い自分だけの物にする気か?
マックスは思わず一歩前に出てローラに怒鳴る
そうよ 悪い?私今までずっと寂しかったんだもん

そんな事させる訳には行かない、君一人が寂しい思いをしてきた訳じゃない
それにその行動の為ほかに不幸な人が出るんだぞ

・・・
ローラはしばらく黙っていたが 次に口を開いた時 またどす黒い声が混じる
やっぱりお前は敵だ・・・ローラの話 聞くって言ってたくせに全然聞いてくれない
そういうと再び氷の刃を放ってくる

ぐっ
横に避けるが避けきれず腕をかすめてしまう
マックスさん?
大丈夫ですフローネさん、できるだけ手を出さないで

不幸中の幸いと言えばローラは一方しか見えていないようで
マックスを敵として見ているがフローネに対してはそうでもないと言う事だった
ここでフローネが手出しすればおそらくフローネだけを狙ってくると思えた

とはいえ間髪いれずに放たれる刃は到底全てを避けきれる物ではない
ついにバランスを崩したところに氷刃が迫ってくる
ガキィッ
マックスに当たる前に氷刃が何かに弾き飛ばされていた
え?
驚くマックスの前にいつのまにか執事が立っていた

あなた様はお嬢様のお友達ですから死なせる訳には行きません
コールソンさん?
頼みますよマックスさん・・・私も捕らえられるでしょうが
しばらくの間 ローラ様の気を引いていてください
その間にわたしが抜け出すきっかけを作りましょう
捕まる人数が多ければ多いほどローラ様の力も弱まるでしょうから

え?あなたは?

あなたからも感じる・・・3人目ね
ローラは再び手をかかげコールソンすらも捕らえてしまう
だがコールソンは驚いた表情も見せずにいた
とりあえずマックスはコールソンの言う通りローラの気を引こうとする
ローラもコールソンを捕らえ終わればまたマックスに気付き攻撃を再開する

3人捕らえているからだろうか 氷刃の速度はさっきほどではなく避けられる
マックスが避けている間にコーレインが同じく捕まっているマイトに囁く
コーレイン様 あなたもこの術から抜け出す為に手伝ってください
あ?これ抜け出せるのか?
魔力を少しずつ放出するようにしてください
そうすればローラ様の力が少し弱まるでしょう

わ・私は?
ネートがコールソンに訪ねる
ネート様には別にやっていただく重要な事があります
え?

・・・このローラ様の事どうお思いになられますか?
・・・・・・とっても可哀想 私みたいで
その気持ちがあれば・・・ローラ様を助けてあげてください、ネート様の魔法で
私の魔法・・・って言われても
ネート様の歌には浄化の力があります、ローラ様を操る黒い影を祓えるはずです
私には・・・そんなことできないよぉ
ネートは首を振って拒絶した
ネート様・・・
ネート 歌えっ!!
マックスは思わずネートに叫んでいた
不思議な事にネートたちの会話はすべてマックスに聞こえていた
それもすぐ近くで話しているかのように鮮明にだ
ネート ローラを救ってやってくれ
マックス・・・でも・・・私なんかじゃ・・・
出来る!! お前の力ならローラを救えるはずだ
で・でも
お前なら・ネートならでき・ぐっ
ネートを説得しようと注意をそらした直後氷刃がマックスの腹に突き刺さる
慌ててフローネがマックスの脇に駆け寄り
次々と放たれる氷刃をガードする為に火の結界を張る
マックスさん?マックスさん?
フローネは火の結界を張っている為回復魔法をかけることが出来なかった
しかしマックスの傷はかなり深く 回復魔法無しでは助かりそうもない
ネ・・・ネ・・・ト・・・歌うん・・だ・・・・ローラを・・救え
マックスは腹を抑えながら途切れそうな意識をぎりぎりたもっていた
マックス・・・はい、私・・・歌うね
ネートから美しい歌声が広がっていく
ネートが歌い始めるとすぐに周りに影響が出始めた
まずローラから絶えず放たれていたはずの氷刃は消え
フローネが張っていたはずの火の結界もいつのまにか消えていた
そして動けなくされていたネート、コールソン、マイトそして団長の体の自由が戻る
さらにマックスの身体を優しく包み込んだ魔力がキズを癒していった
そしてローラを操っていた邪悪な気が完全に消え失せていた



こうしてローレンシュタインでの事件は幕を閉じた
ちなみにローラは元の少女の幽霊の戻りネートの屋敷で暮らす事になった
コーレイン兵士団長もエンフィールドに戻っていった
団長は結局自分が動けかった理由をローラのせいと勘違いし
マックスがそれについて咎められる事はなかった

それは良かったのだが、団長はこんな事を言っていた
『ふんっ BFなどと言ってもたいした事ないではないか
結局相手の魔法から逃げていただけそれ相応の報告をさせてもらうぞ』
・・・と
(崩壊しそうだったあんたの戦線を立て直したのは誰だ?)
と言いたかったが実際事件を解決したのはネート一人だったので何も言えなかった
一応市長にはマイトが直接話をして事情を説明し分ってくれたそうだ
市長も団長の性格が解っていて 少し困っていたらしい

そしてマックスとフローネは最後のお別れを言いにネートの屋敷にきていた
さようならネート、また会いましょう
じゃあなネート、今度暇があったらこっちにも来てくれよ
はい、お二人ともお元気で お手紙書きますね
楽しみに待ってるよ、それとお母さんはまだ起きないの?
はい、もう数日で目が覚めると思うんですけど
そっか・・・それじゃしょうがないな・・・じゃ、またな
はい、また・・

マックスとフローネは駅へと歩いていく




その姿を屋敷の2階の窓から人影が覗いていた
よろしいのですか?お会いにならなくて
コールソンが窓辺にたたずむ婦人に訪ねる
「私にはあの子に会う資格が有りませんから」
ですがあの方は貴女の・・
「良いのですよコールソン、それに私にはあの子の未来が見えてしまいましたから
あの子にとって重く過酷な未来が・・・会ってしまったらつい 教えてしまいそうです」
そうですか・・・解りました
「それに私ではなくあの人が手助けしてくれますから・・・任せましょう」
はい

二人のいる部屋のドアがゆっくりと開いてネートが入ってきた
あっ、お母さん?起きられたんですね
「えぇ、つい先ほどね 音楽祭の方はどうなりましたか?」
うん、大丈夫でしたよ 女の子も無事助けられました
「そうですか、良かったですね」
あっマックス達 今出た所ですから追いかければ間に合うかも
「いいのですよ、あの子達にはいずれ会えるでしょうから」
お母さんマックス達のこと知っていらっしゃるの?
「えぇ」



列車が来たみたいですね・・・名残惜しいけど行きますか
はい、なんだかすごい長い間過ごしてきた気がします
僕もです・・・ここはなんだか懐かしい香りがしました
また来ましょう、次は任務以外で
そうですね


列車はローレンシュタインを離れシープクレスト方面に進んでいく


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