第12章「ローレンシュタイン音楽祭2 前編」



はぁ?他の町に出張だぁ?
「そういったつもりだが・・・聞こえなかったのか?」
ロイド部長がいつも通りの席に座りその前にルシードが立っている
だが、確か別の町にココよりもっと大きな組織があったろう?あっちは?
「そこが断ったからこちらに話が回ってきたのだ」
ならこっちも断ればいいじゃねーか
「そういう訳にもいかんのだ、これは市長の決定だ今までとは命令の重みが違う」
ふん、だったら今後のあんたの命令は無視していい・と?
ロイド部長に対してここまで言えるのはルシードぐらいであろう
「そう揚げ足を取るな、とにかく詳しい資料はココにある・・・が」
ん?
「実際に現地に行く者だが・・・」
そこまで決まってんのか?
「正式に決まっている訳ではないが・例えばマーシュ、ワイエスの二人が行ったらどうだ?」
まぁ・・・確かに問題はあるな
「お前は室長であるから行かせるわけには行かないので、
デュセル、トリーティア、アーセニックこの中から2名を向かわせてほしい」
いつもの命令口調じゃないんだな
「あくまでも正式な任命権はお前にあるからな・・・だが無視すれば・・」
わーったよ、それじゃ用がそれだけなら帰らしてもらうぜ、訓練中だったからな



ルシードは事務所に戻りメルフィ ゼファーと資料を読んでいた
簡単に要約すると

『まず行き先はローレンシュタイン。そこで行なわれる音楽祭の警備をする
なぜBFが行くのかと言うと、そこに住む良家シェフィールド家の現当主には
強い予知能力があり、その予知によると音楽祭中に魔物群が現われるらしい
それに対しローレンシュタイン地方でも魔法能力者は減少の一途をたどっており
魔物に対抗する十分な戦力が無い状態であったそれにより他の町に応援を求めた』

ということらしい
しっかし・・・予知能力ねぇ・・・よくあの石頭タヌキが信じたなぁ
信じる、信じないではないのだろう市長の命令だそうだからな
ルシードがぼやくとゼファーも資料を読むのを止め話に加わる
上には逆らえない・・そーゆー訳か?
組織と言うのはそういうところだ、お前はよく逆らわれるがな
ゼファーが少し にやりとしながら嫌味を言う
へーへー どーせ俺は信用ね―よ
ふふっ そうくさるな、それに俺はいい事だと思うぞ
上に臆さずに意見を述べられる・・・大切な事だ

なーんか褒められてる気がしねぇんだよなぁ
当然だ 褒めてなどいないからな
ルシードは思った まだまだゼファーには勝てない と


夕食が終わりミーティング中、先ほどの命令をルシードが皆に伝えていた
・・・というわけでローレンシュタインまで出張する事になった訳だが
ココで2名現地に向かうものを決めたい。立候補者、辞退者はいるか?

ハイハーイ
ビセット、ルーティが同時に手を上げた
ローレンシュタインって洋服がいっぱい売ってるらしいのよねぇ
俺もこんなところ事務所なんかにいるより実力を発揮できると思うぜ
ルーティ ビセットは訳のわからない理由を述べる
そしてバーシアはめんどくさそうに手を振り
あたしパス、そんな遠いところ行きたくないわ
ほかに意見が出なそうなのでルシードが訪ねた
マックス、フローネはどうだ?
いえ、僕は別に
わたしも二人が行きたいでしょうから・・・
マックスもフローネも辞退した

んじゃ、マックスとフローネ 2名で行ってくれ、しっかりやれよ
え〜〜〜」「何よそれ〜〜〜
口々に不平不満を言う二人だがルシードが一喝する
だまれ、これは仕事なんだからお遊び気分でいかれちゃ困るんだよ
そういわれると思いっきり遊び気分だった二人は返す言葉が無かった
それじゃ二人とも、頼むぞ


ここがローレンシュタインですか、降りましょう
長い間列車に揺られていた二人は列車を下りた後大きく伸びをした
んーーー、ずいぶん来ましたね
この辺りは町同士がかなり離れている
もしここで降り過ごしたりすると隣町はエンフィールド・・・相当遠い場所だ
ここは緑が多くていい場所ですねぇ
フローネさんの言うとおりかなり緑の多い印象を受ける
町自体はかなり活気があるのだが、町の外はずっと緑が広がっている為だ
それじゃ、まずは自警団本部に向かいましょう
そうですね


自警団本部はかなり大きな建物で程なく見つかり挨拶を済ませる
どうやらBF以外の援軍はエンフィールド自警団のみ
さらに対魔物の戦闘経験はほとんど無いという
だが実はBFの二人とて経験豊富というわけではない
マックスは幼少の頃より訓練してきたとはいえ実戦は最近から
フローネに至っては訓練を始めたのすらここ1年程度だ
それを知っている訳ではないだろうが、自警団の態度は好意的とはいえないものだった
BFが来た事をむしろ迷惑と思っているところもあるようだ
だが上が決めたこと逆らう訳にも行かずとりあえず迎えただけのようだった

その後の会議でBF、エンフィールド自警団、ローレンシュタイン自警団が
合同で音楽祭中の警備について会議を行なった
そこでも露骨にBFを毛嫌いしているような決定がなされる
ローレンシュタイン自警団の警備場所は正門付近
エンフィールド自警団の警備場所は裏門付近
だがBFの警備場所はどちらともつかない中途半端な位置だった
元々二人などではまともな警備など出来ないのだから
どちらかに編入するか、部隊を貸して第3軍とするのが妥当だろう
しかも各チーム間の連絡も徹底していない
マックスの意見等も却下されこの決定は代わらないようだ
与えられた事をやるしか無い
今はそれだけのようだった


うんざりとする様な会議が終わり二人はシェフィールド家を訪ねていた
でか・・・
すごい・・・
二人はシェフィールド家の正門前まできたのだが
そのあまりの大きさに驚いていた
庶民では一生入れないような豪邸だった
マクシミリアン・アーセニック様、フローネ・トリーティア様でいらっしゃいますか?
いつのまにか門のすぐ向こうに一人の老人が立っていた
は、はい。そうです
お話は伺っております、どうぞこちらへ
大きな門がゆっくりと開いた


お茶を入れてまいります
老人は二人をある部屋に案内し、そう言って部屋を出て行った
ようこそアーセニックさん トリーティアさん、私はネート・シェフィールドよろしくね
部屋に置いてあるピアノの側に一人の清楚な感じのする女の人が立っている
年はマックスたちと同じくらいだろう 腰の辺りまで伸びた綺麗な黒髪が印象的だ
あっ、わたしのことはフローネと呼んでください
僕のこともマックスと呼んでくださって結構ですよ
そうですか?それでは私のこともネートと呼び捨てにしてくださいませんか?
いや、それはさすがに・・・せめてネートさんって
明らかに気品が漂う人に呼び捨ては辛いので妥協策を提案するが
ネート です
いや・
ネート
解りました・・・それじゃネート よろしく
結局マックスが折れる事になった
あの・・・私も・・・ですか?
フローネがおずおずと尋ねると
勿論です
あ・・・それじゃぁ・・・ネ・ネート よろしくね
はい、マックス フローネよろしく

しばらく3人で話をしたがフローネは少し気恥ずかしそうにしていた
呼び捨てにされるのは慣れているんですが、呼び捨てにするのは慣れてないです
まぁ、こういうときぐらいいいんじゃないの フローネ?
マ・マックスさんまで
ははっ、冗談ですよフローネ・・さん
いいなぁ・・・楽しそうで・・・私って一人もお友達っていないから・・・
二人で楽しそうにしているとネートが急に表情を曇らせた
ネートさん・・・
なに言ってんだよネート、僕達はもう友達でしょ?
えっ?
そうですよ、私たちもう友達ですよ
それだけでネートは泣きそうになってしまう
ほ・本当にお友達になってくださいますか?
こちらこそ
3人はしっかりと握手を交わした

いつまでも雑談ばかりしている訳にもいかないので
ネートが泣き止み、落ち着いたのを見計らい仕事の話を切り出した
ところで、ネート あの予言はネートが?
いえ、私の母です。タイディ・シェフィールド この家の当主です
そのタイディさんはどこにいらっしゃるの?
母は寝ているんです、大きな予言をした後は決まって数日は寝てしまうんです
それだけ予言に魔力を使っていると言う事ですね・・・ネートは予言を聞いた?
はい、お話しましょうか?
頼みます
とは言っても・・・今度の音楽祭に魔物たちが襲ってくるという事と
それと女の子を助けてくれ・・・って、それだけなんですよ

女の子?
はい、確かにそう言って・・・すぐに寝込んでしまって何のことだか・・・
女の子・・・ですか・・・何のことなんでしょうね?
今は解りませんが、覚えておいたほうがよさそうですね

そんなやり取りをしている時にいつのまにか置かれたコーヒーとクッキーに気がついた
あれ?これいつの間に
コールソンさんが今置いていったのよ、いっつも気付かない内に出て行ってしまうの
コールソンさん・・・ってさっきのおじいさん?
えぇ、ずっと前の代からうちでボディーガード兼執事をしてくれているの
あの人は確か4代目になるんじゃないかなぁ

それじゃ、この家が出来た時から居るんだろうね
そうね、コールソンさんって優しいんだけど、すごい強いのよ


ところでネートは音楽祭でピアノを弾くの?
マックスが気になっていた事を聞いた
ううん、私は歌を歌うのよ。ピアノも好きだけどね
ピアノ弾けるのかぁ・・・いいなぁ
フローネ 弾いてみる?
フローネがうらやましそうにしているとネートが聞いてきた
わ、わたしはいいわ。それよりネートの歌を聴いてみたいなぁ
え〜恥ずかしいなぁ
でも ほら 音楽祭でるんだから練習のつもりで・・・ダメかしら?
うーん 分ったわ それじゃ聞いてね

ネートの口から綺麗な歌声が流れ出てくる
ただの歌とは思えない不思議な感覚が辺りを包み込んでいた
こ・・・これは・・・
マックスが声を漏らした

すっごーーーい 思わず聞き入っちゃいました
ありがとう
ネート?シェフィールド家には強い魔力があるって話だよね?
突然マックスが話題を変えた
と、ネートの表情が一気に暗くなった
はい・・・でも私も母も魔法が使えないの・・・母には予言の力が有るのに・・・私は・・・
うつむきながら小さな声でなんとか話している
そんなこと無いよ、君の力・・・さっきの歌だよ
でも・・・歌なんて誰にでも歌えるし・
そうじゃないさ、キミの歌は魔力が込められた魔法だった・・・しかも相当強力な
あの歌にはかなりのヒーリング能力があるはずだよ

うそ・・・
嘘じゃないよ キミには大きな力がある それを伸ばして行きなよ
ガバッ

っ!?
突然ネートに抱きつかれ 驚いてどうにも動けない
ホントに・・・
え?
ネートが消え入りそうな声を出したので思わず聞き返す
ホントに私には力があるのね・・・辛かった・・・今まで代々強い魔力が有ったのに
私で消えてしまったのかなって・・・誰も何も言わなかったけど・・・辛かった

間違いないよ キミのお母さんよく病院とかで歌わせたりしなかった?
・・・はい、毎月病院に歌いに行きます。ただのボランティアだと思ってた・・・
ね? ネートは力が有ったんだよ
ぎゅっ とネートが腕に力を入れて抱きしめてくる
顔を胸に押し当て 泣いているようだった
安心するよう 頭を優しく撫でる



ネートさんすごく嬉しそうでしたね
きっと今まで不安で仕方なかったんでしょう、力の無い自分と、何も言わない周りに
でも、マックスさんも と〜〜っても 嬉しそうでしたね
え?フローネさん?ちょ・
いいんですよ 別に わたしには関係ないことですし
フローネは急に早足になって歩いていく
嫉妬されるのはある意味嬉しいんだけど厄介な事だとも思った
待ってくださいよ、フローネさーん


その後 自警団に一泊し
音楽祭当日・・・そして予言の指し示す日だ

そして、いま音楽祭が始まろうとしていた


選択画面に戻る
トップに戻る
13話に進む