伊藤「今日も遅刻・・・か・・・」
1時間目の休み時間
少し後ろの ポツンとあいた机を見る
その机だけが妙に真新しく、主がいないようにも見えてしまう
沢城「伊藤、どうした?」
友人が話し掛けてくるが いや、何でも と話を打ち切ってしまう
悪いとは思ったが、あまりわいわいとやる気分にはなれない

ふと窓の外を見る

校門の向こうの桜並木


・・・その向こうに・・・



・・・今でも彼女はいるのだろうか・・・


CLANNAD 渚if・・・ 第1話『友達』



生徒A「なぁ、今日も居たってさ」
生徒B「マジか?何してんだろうねぇ」
!!
教室の雑多なざわめきの中に、ひときわ自分に響く会話
だがそちらを振り向いた時には彼らの会話はまた雑多の中に溶け込んでいた
彼らにとってはさほど興味の惹かれる内容ではないのだろう


彼女を始めて見たのは3年の始業式
第一印象は『可愛い』よりも『俺に似ている』
別に生き別れの兄妹のように容姿が似ているとかじゃない
彼女を包む雰囲気
一言では表し難いが、あえて言うなら・・・壁・・・
他者を排斥し、個を守ろうとする感じ
直感的に―もしや―と思った

偶然にも同じクラスで名前はすぐにわかった
昨年は散り散りになっていた友人に聞けば予感が正しい事がわかる


彼女は俺と・・・同じだったのである・・・


次の日、彼女は遅刻した

次の日はさらに遅れての登校だった

担任も何も言わないし、皆も興味は無いらしい



そして数日後、俺は久々に寝坊した
まぁいつも予鈴よりも30分以上早く登校しているので滅多な事では遅刻にはならない
いつもは早くて生徒はまばらにしか居ない
だが今日はかなり多くの生徒が自分と一緒に歩いていた

その中に彼女は居た

坂の下で立ち止まっている彼女
次々と生徒が流れていく中で
まるで1コマだけが止まってしまったように
坂の上を見上げ、桜を見上げている

少し不安を感じるが
―今日は遅刻は無いかな―
そう思って俺は坂道を登る

そして彼女は、3限が終わってから教室に入ってきた



・・・それが昨日の話・・・
今日は普段どおりに登校した為に彼女の姿は見ていない
彼女はまだあそこに居るのだろうか
(確かめたい)
そんな衝動に駆られるが実行に移す勇気は無い

結局彼女は4限開始前に現われた



昼休み、食事を終えて廊下を歩いていた
沢城たちは先に行っているはずなので少し急いでいる
(ん?)
委員長が窓の外を見下ろしている
何気なく庭を見下ろす
「あ」
ポツンと1人でパンを食べている
ふと委員長の視線を確認しようとするが、既に後姿になっていた
また庭を見下ろす
なにやら一所懸命にパンを食べている姿がかわいい

ふと目が合う

が、彼女はすぐに目をそらしてまたパンを食べ始めていた
俺もまた、当初の目的地へと移動し始めた
また、話すきっかけを捨ててしまったのかもしれない



こんなことを話したいとか
何かこうしてみようとか・・・そういう訳じゃない
ただ何か、話をしておきたいと感じ始めていた
それがどういう気持ちなのかすらもサッパリ解らない
ただの投影による同情なのかなのか、惹かれているのかも・・・



伊藤「うわ、ずいぶん遅くなったな・・・」
日は既に落ちかけ赤くなった廊下を歩く
特に3階には誰もいない
こんな時間まで残っている3年はまずいないからだ

日直の後に雑用をやらされた結果がコレだ
断ればいいんだが・・・つい引き受けてしまうのは悪い癖なのかもしれない

ガラッ
伊藤「え・・・」
自分の教室に入った瞬間違和感に気付く
赤く染まった教室にポツンと座るひとりの少女
彼女はまるで俺が入ってきたことにすら気付いていないかのように俯いている

ガラガラガラガラ
普段なら気付かないドアの音が妙にうるさい
そのまま自分の席まで歩いていく
(何か話さなきゃ)
とは思うのだが言葉が出てこない
足音が妙に響く
その足音が自分を急かしているようにさえ感じ、焦る

渚「あの・・・」
伊藤「え?」
俺が意を決して口を開こうとした直後に彼女が喋った
渚「伊藤くんは・・・この学校が好きですか?」
伊藤「・・・・・・あぁ」
渚「『前』も・・・でしたか?」
伊藤「・・・あぁ、『前』も・・・『今』も・・・」
渚「私も好きでした・・・でも・・・わたしの好きな事は全部前に進んで・・・もう追いつけません」
伊藤「解るよ、俺もそうだったから」
渚「伊藤くんも?」
伊藤「そりゃそうさ、最初からこんな風だと思った?」
渚「い・いえ」
伊藤「俺も最初は誰とも話さず、話せずにいたよ・・・自分から近付こうとしなかった、むしろ離れようとしていた事もある」
渚「・・・・・・」
伊藤「でもさ、少し近寄ってみたんだ・・・そしたら案外普通にいった、向こうもそうだったらしい・・・」
渚「私にはそんなこと・・・」
伊藤「・・・確かにこの学校で今の学年だと他人に興味を持ってない奴が多いからね・・・」
渚「・・・」
伊藤「でも・・・俺にはこうやって話し掛けてくれたじゃん?」
渚「それは・・・先生に言われて・・・」
伊藤「それでもいいんだよ、きっかけなんてホント何でもいいんだ、俺なんてきっかけは休み時間にトランプするだけだったんだぞ」
渚「学校にトランプを持ってくるのは・・・」
伊藤「ま、それはこの際置いといて」
渚「う〜」
伊藤「あのさ・・・・・・」
渚「?」
伊藤「友達に・・・ならない?」
渚「え・・・・・・」
そのこと場を発した直後彼女の目に涙が浮かび始めた
(えぇ!!)
伊藤「あ・あの・いや・嫌ならいいんだけ――」
渚「違っ・います」
伊藤「え?」
渚「あの・私嬉しくて・・・」
伊藤「あ・・・それじゃ・・・」
渚「私・・・でいいんですか?」
伊藤「あぁ」
渚「後悔とか・・・しないですか?」
伊藤「あぁ」
渚「・・・こ・こちらこそ・・・」
伊藤「ん、よろしく、それじゃ一緒に帰ろうか?」
渚「あ、はい」



俺と古河さんが並んで教室を出て廊下を歩く
今日学校に来た時と帰るとき
ココまで変化するなんて考えもしてなかった

明日は、ちゃんと来てくれるよな・・・


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