ダブルクロス 〜それは裏切り者の証


【オープニングフェイズB】



シーン6『飛び出し注意』  -ScenePlayer薬王寺結希-

東京近郊のUGN K市支部
その支部長のデスクには1人の少女が座っており
そのすぐ後ろにはほとんど歳の変わらない少女が立っている

座っている少女は14歳ながらこの支部の支部長である『薬王寺(やくおうじ) 結希(ゆうき)
幾度か部隊が壊滅したりもしたが、大きな成功もしている
しばらくは人材不足により支部が閉鎖されたが、つい最近再編され
再びその支部長に就任したのである

立っている少女は同じく14歳の『(たちばな) 美宇(みう)
霧谷自身による人事異動が行なわれ、結希の補佐に任命されたUGチルドレンである


二人の除きこむディスプレイには1人の女性の写真が映し出されている
結希「川島・・・美空、どう? FHから出てきたらしいけど・・・」



美宇は幼児の頃に家族から隔離されて現在にいたる
最近調べた結果、両親は死んでいることが判明した
だが姉がまだ生きているかもしれない事を美宇は突き止めた
そして上司である結希にもその調査を個人的に依頼していたのだ

別段 強制力の無い、実にプライベートな依頼ではあるが、結希は根気よく調べた
その結果が1人の人物 『川島美空』だったのである



美宇「よく・・・解らないかな、顔も少し違う感じがするし」
結希「整形っていう可能性もあるからね」
美宇「ん?・・・・・・ちょっとゴメン」
結希「あ!」

突然美宇がキーボードを叩き始める
すぐに別のウィンドウには見慣れない文字列が浮き上がる
さらにキーボードを操作し、必要な情報だけをピックアップする

美宇「こっちのUGNの秘密作戦だけど・・・」
結希「『川島美空の護衛』・・・って!今日!?
美宇「急ね・・・・・・私、行って来る!!
結希「へ!?そんな!まだ何も解ってないのに」
美宇「後でわかっても遅いでしょ?何事も思ったが吉日よ」
結希「そうは言っても侵入(クラック)して得た情報じゃない
   穏便に捜査に加われるとは思えないわよ」
美宇「イリーガルの増員は見とめる、っていうフリーな作戦じゃない」
結希「でもあなたはイリーガルじゃ ってちょっとぉ〜」
美宇「んじゃイリーガル一人拉致ってくわよ」
結希「そ・そういう問題じゃ〜」

ガチャ

美宇「ゴメンね、痕跡消すのはお願い」

ガン
??「たっ!!

バタン

結希「はぅ〜 行動力が有るのは・・・って?何の音?」

ガチャ キィィィィ

結希「はにゃっ!?
閉められたはずの扉が力無く開けられ、鼻っ柱を赤くした1人の人物が入ってきた


※危険ですから扉を急に開けてはいけません




シーン7『入れ違い』  -ScenePlayer檜山ケイト-

鼻を抑えながら入ってきた少年 『檜山(ひやま)ケイト』



昔、自らの力を嫌い 自らの殻に閉じこもっていた
だがそんな折、結希と会い、行動するうちに惹かれあっていた

今ではこの支部内で彼の事を知らない者は無い
・・・結構バカップルぶりを発揮する者として・・・



ケイト「たたた・・・美宇ちゃん どうしたの?急いでたみたいだけど」
結希「ん?ちょっとね・・・」

言いながらも結希はカタカタとキーボードを操作する

ケイト「あーそだ、さっきそこで霧谷さんにあってね」
結希「ふぇ?どこで?」
ケイト「コンビニ」
結希「コンビニ!? ・・・ 霧谷さんってどこに出るのか良く解らないのね」
ケイト「まぁそれは・・・仕方がないし、とにかく至急コレを見てくれって」
結希「ん・・・・・・っと、貸して」

作業が終わったのか、ディスクを受け取りパソコンに入れる
暗号強度はほとんど無いといっても良いモノのようだ
おそらくは今日明日中に行なわれる作戦なんだろう
別にあさってになれば命令書が漏れても構わないのだから暗号は比較的軽い
・・・とはいっても民間にもれる訳には行かないけど・・・

パスコードを入力すると1枚の写真がまず表示される

結希「あ・・・」
ケイト「ん?知ってる人? ・・・・『川島美空』?」
結希「うぐぅ〜・・・」
ケイト「どうしたの?」
結希「美宇ちゃんの携帯!!・・・がそこに置き忘れてる!?

確かに机の上には放置された携帯がある

ケイト「美宇ちゃんがどうしたって?」
結希「えっと・・・ケイトなら平気よね・・・実は・・・」



     *     *     *



ケイト「そっか、後1分待ってくれれば正規の応援でいけたのに・・・」



ディスクに入っていたのは『川島美空護衛』の任務に対する応援要請だった
敵のメンバーに予想よりも強力な人物が紛れ込んでいる可能性があるらしく
隣町であるココからも応援が呼ばれることになったのだ

つまりいちいちハッキングしなくても美宇は作戦に加われた事になる



結希「まぁ・・・ぼやいててもしょうがないね、行ってくれるかな?」
ケイト「ん、結希は?」
結希「ゴメン、ちょっと今は手が離せない」
ケイト「解った、それじゃ車回してもらえる?あの子車だよね」
結希「ん、玄関で待ってて すぐに向かわせるわ」



ケイト「さて・・・忙しくなりそうだな・・・」




シーン8『人の日常 僕の日常』  -ScenePlayer宮崎智-

智「ふぅ・・・」

放課後のホームルームが行なわれている教室
その窓際一番後ろという席で溜息をつく少年 『宮崎 (さとる)
UGチルドレンであり、社会勉強と言う目的で今日も学校に通っている



今日は文化祭のお陰でずいぶんと遅くなった
準備も面倒極まりなかったが、その片づけは数倍面倒なものだった
面倒と言ってもサボって目立つ事は避けるべきだろう

親しい友人なんていうのも居ない
彼らの日常に溶け込むなんていう真似は、僕には出来そうも無い

正直学校なんて行きたくないのだ
暇で面倒で
彼らが眩しく感じられて鬱になるだけ
UGNが行けと言うから仕方なく通っているだけだ



ようやく先生の話も終わり、バラバラと席を立つ音がし、騒がしくなる
ふと窓の外、赤く染まっている校庭の先を見る
何処か見慣れた車が見える
・・・・・・・・・・・・
・・・なんだ?なんか嫌な予感が・・・

ガラッ

教室の喧騒にも負けず劣らない程にドアの音が響く
美宇「智! 宮崎智!
その音と共に入ってくる小柄な少女
漆黒の髪は肩あたりで切りそろえられ
髪の間からのぞく きりっとした目で教室内を見回す

必然的に教室内が静まり、彼女に視線が集まる
制服を着ていないこともそうだが、彼女は人目を惹く容姿だ
平均以下の身長だが、可愛いという言葉は似合わない
むしろ綺麗寄りだ・・・と、誰かが評していた
そんな『綺麗よりの少女』が僕の名を呼ばわって教室内に乱入してくる
・・・最悪・・・

生徒A「おー、宮崎の彼女か?」
生徒B「なに?痴話喧嘩か何かか〜?」
静まっていた教室が一瞬にして騒がしくなり、先生も呆然としている
生徒C「ほれ、彼女が呼んでるぞっ」
突然背中を押されて、よろけるように一歩前に出る
すると彼女と目が合った

美宇「なーに隠れてんのよ 一瞬間違ったかと思ったじゃない」
智「何で・・・ココに・・・?」
美宇「あんた暇よね?どう見ても暇って顔してるものね」
何とか搾り出した疑問はあっさりと無視される
智「まぁ・・・特に予定は無いけ  
美宇「んじゃ来なさい」
智「へ?な・なに?」

そのまま腕をつかまれて教室外に引きずり出される
扉が閉まる直前、教室内に不思議な喝采が沸き起こるのを頭が痛くなる思いで聴いていた
皆は完全に誤解している
橘が来るときは決まって厄介事なのだ
しかもとびっきりの



問答無用で車まで拉致られ、助手席に放り込まれる
そのままシートベルトもつけないうちに急発進する
・・・信じられない事に橘はこの容姿で・・・っていうか年齢で免許を持っているのだ・・・
運転は、まぁ普通
ただ、荒れている時はその心理状態がそのまま運転に反映されるので
普段見えないものが見えてくるかもしれない

今だ何が起こっているのかの説明すらないが
僕にとっては、コレが日常の姿なのかもしれない

・・・コレはコレで嫌なんだけど・・・




シーン9『緊急招集』  -ScenePlayer佐々井真奈-

ザーーーーーーーーーーーーー

狭い室内に水音が反響する

ザーーーーーーーーーーーーー

1人の女が 日ごろの疲れ切った体を休めるよう、その水に身をさらしている

ザーーーーーーーーーーーーー

UGNエージェントでもあり、同時にストレンジャーズでもある『佐々井(ささい) 真奈(まな)
どちらの組織もその事を知っており、その上で利用しようとしている
その狭間にあって、彼女の心が休まる事はほとんど無い

ザーーーーーーーーーーーーー

と、壁に設置された小さな灯りが点滅している事に気付いた
ストレンジャーズの呼び出しであることがすぐに解る
そのわきにも点滅はしていないが幾つかのライトが配置してあるのだ

ザーーーーーキュッキュッピピッ ピピピピッ ピピピピッ

水音が消えると遠くから電子音が聞こえて来る
どうやら機械の故障なんていう都合のいい偶然は起こらないらしい

別段急ぐ訳でもなく髪と体をざっと拭き
バスローブだけを羽織りリビングに出る

ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ 

すでに数十のコールをしているだろうが止む気配は無い
ディスプレイには『佐賀良祐』の文字が表示されている

が、現実にはこんな人物は存在しない
・・・いや、厳密に入るかもしれないが、少なくとも知り合いには居ない
この名はストレンジャーズの隊長である『菅原泰道(すがわらやすみち)』が緊急時に使うものだ
軽く溜息を洩らしながらも仕方なくその携帯を手にとり、通話ボタンを押し込む


真奈「 お久しぶりです菅原隊長」
菅原『あぁ 今日は無駄話をする余裕は無い この番号を使う時点で解っているな?』
真奈「はい」

菅原『今日は今からすぐにN市にある第3最高裁判所に向かって欲しい』
真奈「・・・」
菅原『そこで川島美空・・・おって写真は転送するが・・・を保護する事を目標とする』
真奈「その川島美空は民間人ですか?」
菅原『違う UGNのエージェントをしている 表向きは検事だがな』
真奈「ですがそれはUGNの管轄では有りませんか?」
菅原『UGNの方でも対応が遅れているのだ、我々は独自に彼女を保護する』
真奈「・・・・・・」

菅原『FHが彼女を拉致するために動こうとしているらしい 時間は1時間後』
真奈「1時間!? ちょ 間に合いませんよ?」
菅原『交通規制はすでにされている 国道A8号線は無制限に飛ばして構わん』
真奈「そこまでして手に入れたいモノなんですか?」
菅原『君に答える義務は無い キミはただ言われた事を実行すればいい』
真奈「・・・・・・了解しました」

菅原『他にも数名現場に向かわせるが、キミより先に付くのは3人程度
   ぎりぎりに間に合いそうなのも5人に満たない 臨機応変に戦え 以上 プッ』

全ていい終えたのか通話は切れ、続いてメール着信のアラームがなる
一瞬の時間差の後表示される1人のターゲット『川島美空』

真奈「了・・・解・・・・・・『戦え』ね・・・・・・と・・・なのかしら・・・
その呟きに答える者は誰もいない
そして彼女自身にもまったく見当のつかないことだった



     *     *     *



ドッドッドッドッドッドッ

真奈「さて・・・行くしかないのね・・・」

自らのバイクにまたがり、ヘルメットを被る

真奈はバイクは好きだが、なるべくバイク自体に愛着を持たないようにしている
なぜなら仕事の状況によってはかなりの確率で壊れるからだ
逆にコレを壊し、自分を生かす事を考える必要さえある

だから自分のバイクには何も無い
名前も歴史も無い
有るのは性能だけ
仕事をするに十分な性能
自分を生かすために役立つ性能

それは真奈自身にも何となく似ているところがあるかもしれない
UGNと防衛隊
両者から両者に通ずる者として利用され
場合によっては破壊されても・殺されてもいいと考えられている存在
それが自分

ヴォォン

迷いを断ち切るようエンジンをふかし走り出す

自らの死地になりかねないような場所へと




シーン10『ワケ』  -ScenePlayer川島美空-

勇悟「と、いう訳でこの度の裁判は私達が助手をする事に成ります」
司「よろしく」

勇悟と司が1人の女性の前で自己紹介の後一礼する
『川島美空』
今回のF.H.のターゲットになっている人物であり
UGNが出来る限りの戦力をかき集めて保護しようとしている人物である

美空「・・・・・・なんで・・・?」
司「なんでって言われてもねぇ・・・F.H.が来るからとしか・・・」

ほとんど独り言のように訪ねる美空
だが彼女と今まで会話していた司はコレが彼女の問いかけだと思い答えようとする

美空「違う」

だが間髪居れずに短く、ただしはっきりと否定する

司「は?」
勇悟「F.H.が君を狙う理由・・・ですか?」

よく意味が解らず沈黙する代わりに勇悟が訪ねると、美空は そう と軽く頷いた

司「F.H.から出てきたから?」
勇悟「それも無関係ではないでしょうが、人1人を拉致する計画にしては物々しい感じですね」
司「ま、俺にはよー解らんけど」
勇悟「霧谷さんにでも聞けば・・・・・・いや、聞いても肝心なところは話さないかな・・・」

美空「私は・・・適合者・・・」
司「は?」
勇悟「なんですって!?」

呟くようにひとつの単語を紡ぐ美空
その言葉に勇悟が敏感に反応する



『適合者』
賢者の石という特殊な力を秘めた者がある
コレはレネゲイドに通常をはるかに超えるパワーを与えることが出来る
だがその半面、ほとんどの人はその衝動に耐え切れずジャーム化してしまうのだ
それに耐える者が適合者である

適合者はそれほど数が多くなく、存在自体が希少ではある
だが少なすぎる訳ではなく、むしろ賢者の石の希少さと比べればかなり多いのだ
よってそれだけではやはり大規模な作戦となる理由としては薄い



美空「そう・・・何も知らされてないのね・・・・・・」

適合者と聞いた時の2人の反応を見てそう判断した美空は質問を切り上げ、席を立つ

美空「時間が無い・・・今日の裁判について説明します」
勇悟「あ・・・はい」
司「おう」



それ以後は作戦の事が美空の口から話題にする事はなく
勇悟の提案に対して頷くのみだった



そして運命の時間はすぐ目の前にまで来たのだった





【オープニングフェイズB】End






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