『ヒース独立記』

第3話「HOD『Help or Die』」

・・・この日・・・
・・・ご主人様が神殿に対して明らかな犯行をした日・・・
・・・・・・私は痛感しました・・・・・・

ご主人様の見通しの甘さ



ライン上空で前代未聞の空中戦が開始されました
と言ってもほとんど一方的です

敵は複数
フライトで飛び上がったと思われる剣士達が5人程
翼の生えた魔術師や聖職者が3人ほど
さらに、フライトで飛び上がってくる者は増える一方

対してご主人様は頭に私 腕にはアルリクを抱えているのだから思うようなスピードは出ません
ましてや回避運動などそうそう出来るものでは有りません

だいたい飛行訓練などほとんど行なっていないのですから
普通に飛ぶだけならまだしも空での戦いなんてほとんど無理です



向こうも下の街に被害が及ぶのを恐れてか、あまり派手な魔法は使ってきませんし
矢の雨あられ みたいな事にもなりません

ですが、それを喜ぶ事も出来ません
街の上を飛んでいるからこそ、その手加減があるのです
街から出てしまえば容赦なく魔法や矢が降りそそぐでしょう
そうなれば到底逃げ切る事など不可能です

また、敵は増える一方なのですから このままではいずれは囲まれ、動けなくなるでしょう
やっぱり遺書でも残しておくべきだったんでしょうか・・・




えーい何をやっている!!殺しても構わん!!なんとしても逃がすな!!
下からの怒鳴り声が聞こえた直後、上を飛んでいた羽の生えた魔術師が呪文を詠唱し始めました
その腕からは水が沸き起こり、1筋の槍となって伸びてくる!
くっ!」「ふにゃ!?
ご主人様の横を水の槍(ウォータースピア)が掠めて行きます
対象をしとめ損ねた水は街へと落ちていきますが、逆から放たれた炎の塊(ファイヤボルト)がぶつかり、相殺されます

向こうの攻撃は段々熾烈になってきました
もう・・・だめかもしれません・・・



そう思って回りを見渡すと空を飛んでいて敵達は急に不自然な動きをし始めました
まるで何かを探しているかのように視線をめぐらし始めたのです
「ど・・・どこだ・・・」「消えました!!」「そんなっ!?」
周りを飛ぶ者たちが目の前を飛んでいるはずの私達を見失ったのです

バカなっ!!よく捜せ!!移動呪文ではないのか?
下にいる司祭にも見えていないようです

そしてご主人様もこの状況を理解できていないようです



ですがこの隙を逃さない手はありません
ご主人は風の呪文を使い、一気に加速 街を離脱しようとします
いくぞっ

と、その直後 周りに突如嵐にも似た風が巻き起こり始めました
なっ!?
突然の突風にご主人の羽はあらぬ方向に曲げられ、浮力を失った私たちは落ちるしか有りませんでした
うわあああぁぁぁぁぁ」「にゃーーーーー

「ぐぇ!」「ニ゙ャ」
地面に当たる直前、今度は上昇気流の突風が吹いたおかげで転落死は避けられたようですが・・・
それよりも驚くべきは、あのキリモミ状態で落ちていたにもかかわらず
アルリクの安全はしっかりと確保しているご主人です 私は放っておいたのに

上を見ると飛んでいる人の数は減っているようでしたが、こちらを追ってくる気配は有りません
完全に見失って、全域を対象に探し回っている といった雰囲気でしょうか・・・

「どういう事だよ・・・コリャ・・・」
腕の中で伸びているアルリクに気を使いながらご主人も立ち上がって上を見ています

《それについては私が説明しますよ》

「ん?」「にゃ?」
突然頭に直接響くかのように声が聞こえてきました
状況から考えて、先ほどの現象はこの声の主の仕業ですね・・・

「なんだぁ?」
《話は後です 跳ばし(・・・)ますよ》
「は?」とご主人が口を開きかけた直後、視界が歪み始め
次の瞬間にはどこかの室内へと運ばれていました

拒絶する暇もない程に高速発動する強制移動魔法
ココまでのは使い魔人生で初めてお目にかかりました・・・


「あなたも、ずいぶんと無茶をしますね」
「ラ・ランディア!?・・・さん
「あそこで正面切って反旗を翻すなど正気の沙汰じゃないと思いませんか?」
「く・・・」
「まぁいいでしょう、とりあえずそのアルリクは後ろのベットにでも寝かせてあげなさい」
「・・・」
ご主人は言いなりになるのが少し嫌そうでしたが、結局言うとおりにしました

「何で助けた? あんたもやつ等と同じ立場のはずだろ?」
「なに、神殿も一枚岩ではない そういうことですよ」
「・・・」
「私もエレウォンドも 彼等には困っていたのですよ」
「一介の冒険者に過ぎない俺に、そんな裏話を聞かせていいのか?」
「えぇ、そのつもりで呼びましたから それに、そちらには断るメリットは無いと思いますよ」
「・・・・・・ったく、一応聞く」
「一応 先程よりは安全なはずですよ それにそのアルリクを助ける為でもある」
聞かせてもらおうか!



ご主人の性格を上手く利用してランディアさんは話し始めました

内容をまとめると
あのアルリクが主張するには、旧王城に向かう幾人かの人影を見た
それを追いかけて旧王城へと入った所で何者かに後ろから殴られ気絶
気付いたら神官達に確保されていたと言う

神殿としては、不信人物が1人 旧王城へ向かったとの通報があり
向かってみれば通報どおりの体格のアルリクが寝ていた と、言う事らしい


確保した神官はあの裁判を行なっていた司祭の手の者
エレウォンドさんもランディアさんも怪しいとは思っても決定打はない

だが今回の裁判の内容、神官長にも国王にも報告無しにその場で処刑にまでしようとした
その焦りには何かあると踏んだらしいです



「で?それを俺に聞かせてどうするつもりなんだ?」
「勿論 察しの通り旧王城の調査ですよ 極秘にですが」
「それぐらい そっちの方で出来ないのか?」
「残念ですが、あの者の息がかかっていない神官がほとんど出払っているのです
 下手にそのような指示を出すわけには行かないのですよ」

「あんた自身は?」
「私やエレウォンドはあの者達が動くのを牽制する必要があります」
「・・・ったく、解ったよ アルリクの為だしな」
「あなた自身のためでもあります このまま行けば死刑は確定ですからね」

「・・・・・もしかしてこの仕事するのって・・・俺だけ?」
「当然です。この事を他に洩らせば、失敗時の死刑囚が増えてしまいますから」
「俺はいいってのか?」
「どちらかと言うと、あなたのは自業自得なので私を責めるのは筋違いですよ」
「う・・・」

「それに、そのアルリクも手伝ってくれるでしょう 自分の事ですし
 無罪を主張する時にも自ら証拠を持ってくるなどと言っていましたからね」
「え?この子も冒険者?」
「そうですよ、何の為にあの裁判にあの数の冒険者が護衛に入ってたと思うんですか?」
「・・・・」

「そろそろ 起きてもらいましょうか」
《ヒール》
《キュアオール》
《ディスペル》
「? 何でディスペル?っていうかアンタ聖職者系列と魔術師系列どっちも使えるのか?」
「何を今さら、あなた達を消したのは『スナッチ』で移動させたのは『キャストフォース』ですよ
 それに、いろいろと力を封じる魔法がかけられているんですから、そのままでは戦力にならないでしょう」


しれっと答えるランディアさんですが、非常識極まりない魔法能力です
『スナッチ』効果範囲は平均20M前後 ココからではゆうに200Mぐらいはありそうです
『キャストフォース』も元は至近距離の対象を遠くに飛ばす魔法
しかもあの発動の早さ こーゆー人の使い魔だったら・・・とも思ってしまうほどです・・・


「にゃ〜〜〜ふ〜〜」
いままで死んだように眠っていた子がやっと起きました
ご主人はその時初めて、その子の顔をまともに見たようで、しばらくその顔を見つめていました







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