『ヒース独立記』

第1話「ラインの中心でアルリクを叫ぶ」

公開裁判といっても名ばかりのもの
結局は被告に罪状を言い渡しその場で処刑するためのステップに過ぎないのです
司祭の男の前には後ろ手に縛られた猫娘が必死に無実の主張をしていますが、聞くものはいません
住民は処刑という娯楽が欲しいだけですから
加えて言うなら神殿にはあまり逆らわない方がいいと思っているのでしょう
異端審問にかけられて火あぶりにさせられるかもしれません
一応は冒険者の資格を取っているご主人様も"使徒"である以上神官に逆らう事は出来ない・・・・はずです

「・・どうして彼女が処刑されなければならないんだ!」

ご主人様は拳を震わせています。
三度の飯より猫娘(アウリク)の好きなご主人様
きっと頭の中ではどうやったら彼女を助けられるかを考えているに違いありません
これがヒューリンやネヴァーフ、エルダナーンなどの他種族ならば無視して立ち去っていたでしょうに
私としてはそうしてくれた方が良かったのですが

裁判は進み、とうとう判決が言い渡されます。
彼女の主張は勿論却下。控えていた神官が彼女に手を出そうとしたそのときです

異議あり!!

ご主人様の声が広場に響き渡りました。
突然の出来事に広場は騒然となりました。
そして、視線がご主人様に集まります
私は居た堪れなくなりご主人の帽子の中に隠れました。

貴様!何ゆえ裁判の邪魔立てをいたす」
彼女は無実だと言っているじゃないか!そこに美人のアウリクがいたからだ!)」

「にゃう・・・(ご主人、精神同調で思考がこっちにも来てまっせ)」
分かっていました、こうなる事は。
あとはもう、流れに身を任せるしかありません。

「あれだけ必死に無実を主張しているんだ。もう少し詳しく調べてみいてもいいんじゃないか」
「関係ない輩は黙っていてもらおう。それに貴様"使徒"ではないか。神の裁きが間違っているというか」

司祭の言葉には処刑を邪魔されて鬱陶しげな感じが明確に現れています。

「それが神の裁きなら文句は言わない。ただ、あんたが人を裁くに値する人間なのかな」

その一言に神官がぶちきれたようです。

「お前も一緒に処刑してやる。罪状は神と神殿を愚弄した事だ!」
飛び掛ってくる神官達。あっというまにご主人は縛り上げられてしまいました。

「これがあんたのやり方か」
ふふんと鼻で笑うご主人様。

「せいぜい吼えていろ。まずはあの女からだ」
司祭の指示によって彼女が処刑台へと連れていかれます。

「にゃう(まずいッスよご主人。このままじゃ私達も本当に首吊りか首ちょんぱですよ)」
ちなみに通常の処刑は縛り首。罪の重いもの、神を愚弄したものはさらし首になるのです。

「(分かってる。でもさっきの裁判を聞く限りではまだこっちにも策はありそうだよ)」
不敵な笑みさえ浮かべてそうなご主人様。帽子の中なので確認できませんが。
「(とにかく一度ここから逃げ出さないと。ちょっと手を貸してくれ)」
「にゃ(猫の手も借りたいんですね。ご主人)」
「(つまんない事言ってると、三味線にするぞ)」
「にゃにゃにゃ(そ、それはご勘弁を)」

私はこっそりと帽子から出て背中に回ります。
そして、後ろ手に縛られているご主人のローブをカリカリと引っかいて解きました。

「(よし、全速力で飛ぶからしっかりと捕まってろよ)」
「にゃう(合点承知)」

手さえ自由になればあとはこっちのものです。
ご主人はこっそりと<エアリアルスラッシュ>を詠唱
彼女の首に縄がかけられ踏み台が蹴落とされた瞬間に風の刃が放たれました。

「でりゃあ!!」
間髪いれずにご主人が飛び出し、落ちてきた彼女を抱きとめます。
さっきの<エアリアルスラッシュ>は処刑用のローブを狙っていたのでした。

「はっはっは、彼女はもらっていくよ。後日彼女が無実の証拠を叩き付けてやるから覚悟しとけ!」

棄て台詞を残し、ご主人は翼を広げます。
先祖に天翼族がいたらしく、見た目ヒューリンのご主人様ですが背中には翼が生えているのです。

騒然となる広場を後に、私達はラインの空へと舞い上がりました。

「にゃ、にゃう(ご主人、ご主人。私はまだシート(頭上)についていなんですが)」
「しっかり捕まってないと落ちるぞ。そらー、急旋回」
「にゃう!!!(落ちる、落ちる!安全運転で頼みますよー)」

やはり私は使い魔なぞにならず、しがない猫として暮らしていた方が良かったのかもしれません。







3話に進む

アリアンロッドトップに戻る
TRPGのトップに戻る
トップに戻る