第2部『続く悲劇』

第1話『違和感の有る遭遇』

沢村司(35)は木刀を握り締め、夕日で赤く染まりつつある住宅街を歩く
河原瑞音(16)はそのすぐ後ろに隠れるように歩いている
木刀は家の中にあったもの・・・少なくとも支給品よりは使えそうな代物だったのだ

「瑞音は・・・」
瑞音「はい?」
司は後ろを向かずに訪ねた
「どんなやつを探してるんだ?」
瑞音「えっと・・・そうですねぇ・・・和人くん・・・私と同じくらいの男の子と
  瑛ちゃんと恵美ちゃん・・・どちらも私ぐらいの女の子です・・・他にもいっぱいいますが・・・
  この3人は私と同じように力も無いですから心配です・・・」
「そうか・・・あの場所でも小さい奴はそんなにいなかったから
  小さい奴イコール瑞音の友達と考えてもよさそうだな・・・」
瑞音「そうですね・・・・・・あの、司お兄様は?」
「俺か?・・・・・俺は・・・家族・・・みたいなのを探してる」
瑞音「『みたいなの』・・・ですか?」
「あぁ ほんとバカらしい集まりだった・・・けど、今は全力でそれを守りたい」
瑞音「つかぬ事を伺いますが・・・先ほどの・・・その・・・」
「放送・・・か?」

既に一回目の放送が流れ死亡者の名前が挙げられた後だった
もしかしたらと思うと言い出しにくかったのだろう

瑞音「あ、はい」
「大丈夫だった・・・って喜んで良いのかは解らんが、知り合いは一人も死んでいない」

確かに喜ばしい事じゃない
現実に殺し合いが進んでいるという事だ

・・・放送が嘘の可能性もあるが、余り嘘をつくメリットも無いと思う
もし嘘がばれれば参加者の怒りが管理者の方のみに向く
必然的に殺し合いが起き難くなってしまう可能性もある
だいたいこの極限状況なら放っておいても勝手に殺し合いをしてしまうだろう
例え双方にその気が無くても、軽い切っ掛けさえあれば簡単に殺し合いになる
瑞音と出会った状況も相手が大人で、どちらも気を失わなければ・・・
俺はそいつの体当たりを敵の攻撃と思い反撃してしまう可能性もある
瑞音と何事も起きなかったのは・・・殺し合わなかったのは・・・ホント偶然なのだと思う



「え?」
思考を続ける司の視界に驚くべき物が飛び込んできた
瑞音「どうしました?司お兄様」
つられて瑞音もその視線の先を見る
末莉・・・
そこにいるのは、そこに横たわっているのはずっと探していた末莉だった
瑞音「あれは・・・末莉お姉さま?」
え!?末莉を知ってるのか?」
瑞音「は・・・はい、ずいぶんと久しぶりですけど・・・従姉妹の末莉お姉さまだと思います」
「そうか・・・」
まぁそういうこともあるのだろうと、司はそれを考えるのを辞めた
そんな事よりもむしろ大事な事が山済みなのだ

「末莉?」
近くに座り込み、呼びかけるが返事は無い
一瞬不安がよぎるが、すぐに打ち消される
胸が上下に動いている、本当にただ眠っているだけのようだった
「おい、末莉、起きろ」
末莉の身体を揺する
末莉「う・・・うん・・・」
「末莉」
末莉「おにーさん?」
「あぁ、もう大丈夫だ」
末莉「おにーさん、ひとつ頼みがあるの」
司の脳裏に一瞬、変な感覚がよぎる

何か違和感・・・だが司自身よく解らない

「何だ?」

こんな場所・状況で一人で横になっていて

「・・・」

目が覚めた時に俺が目の前にいた

「どうした?黙ってたって・・・」

ソレがこんな反応をするか?

「・・・あのね・・・・・・死んで」
そう言った直後、司がまだ言葉の意味を取れぬうちに末莉がナタを振るう
なっ!?瑞音司お兄様!?
左腕に鋭い痛み、寛との乱闘のおかげで身体が勝手に反応し、それほど傷は深くはない
くっそ!!
すぐさま右腕を振るいナタを叩き落す
「ちぃっ」
末莉はポケットから何かを取り出し真下に落とす
それを見た瞬間、本能的に瑞音を抱えて後ろに飛びのき、伏せる
ドッ
意外なほどに小さな爆発音だけが鳴り、顔をあげると辺りを黒煙が包んでいた

煙の晴れた頃には末莉の姿はない

「・・・なんなんだよ?・・・なんだってんだよ?」
瑞音「司お兄様」
「どうしたんだよ・・・末莉は・・・」
先ほどまで末莉のいた場所に血に濡れたナタが落ちている
何となく・・・ただ何となくそれを拾う
・・・裏切られた・・・訳が解らない・・・何故・・・末莉は・・・俺を・・・殺そうと・・・
・・・俺は・・・信じて・・・何故・・・家族だった・・・平穏・・・殺される・・・末莉・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
瑞音「司・・・お兄様?」
瑞音はナタを見つめたまま動かない司に恐る恐る声をかける
くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
司は何も答えずに絶叫だけを残して走りだした
瑞音あ!
瑞音はそれを慌てて追いかける



「くっそぉ!なんで!何が!あったんだ!」
瑞音が駆けつけると、司は叫びながら木を殴り続けていた
決してなだらかではない木の幹は司の指の皮を剥き
血が流れて出している
瑞音「やめてください!」
「・・・・・・」
瑞音「司お兄様?」
「俺は裏切られた」
瑞音「え?」
「あの時、もう一度だけ信じてみようって、だが・・・」
瑞音違います!
「・・・」

今までに無いほどの大きな声
その響きは一瞬で熱くなった司の頭を冷やす

瑞音「あれは 末莉お姉さまじゃありません」
「な・何を・・・どう見たって・・・」
瑞音「でも違います あんな事をする人じゃありません」
「・・・」

そんな事は司だってわかってる
だが、少し触れた手は本物の末莉そのものだった
確かに違和感はあるが、それを越えるリアリティがあった

「だが、それでも・・・」
??ツカサ!

反論しようとした直後 何者かの声が響く
この状況では普通そんな声を出すものなどいないはずが
そんな事を一切鑑みないような大声だ

だが、そんな声に司は聞き覚えがあった

瑞音の向こうに見える人

逆光を背負ってる為に顔までは良く見えない
だが、その格好と声は、明らかにある人物を指し示している

そして、その右手に持っているものが見えた瞬間
司は動き出す
「瑞音! 伏せろ!」

そう怒鳴りながら1メートルは離れた瑞音へと駆け出す

アイツが何を狙っているのかは解らない
だが、何かが危険だと告げている




謎の声が後ろからした瞬間 私は振り返った
司お兄様の事を明らかに知っているであろう言動
だが、その纏っている雰囲気は、決して友好的ではない

そして、その右手に持っているものが見えた瞬間
体は勝手に動いていた

後ろにいる司お兄様が何かを怒鳴った
何を言ったのかは聞き取れなかったが、何となくわかる
でも、そうする訳にはいかなかった

冷静に考えればこの行動は間違ってると思う
自分が逃げる事だけ考えれば、ある程度お兄様は自由に動ける
でも、咄嗟に動いた体は 逃げようとはしてくれなかった




アイツの手が動く
おそらく手に持ったものは刃渡り20センチ弱の短刀
それが自分に向けて投げつけられる

多分当る 前に走っている自分には避けられない
だが、当っても腹だ
運がよければ死にはしないだろう
毒でも塗ってあれば話は別だが 今は賭けるしかない

ザッ

「えっ!?」

血が飛ぶ
自分のものじゃない血が

み・瑞音ぇ!?

前にいた瑞音の体が僅かに浮いている
短刀があたった衝撃などではない
あれは・・・自分で上に飛んだのか?・・・

??「ちっ」

その向こうにいるアイツは軽く舌打ちするとそのまま向こうへと消えていった
それを追う気などまったく起こらない
すぐに瑞音の元にしゃがみ込む


目をそらしたくなるような状況

ナイフの柄が、本来目のある部分から生えている

ナイフの長さを考えれば後頭部の頭蓋にまで、刃は達しているだろう

瑞音の体は痙攣しているものの、呻き声のようなものは無い
おそらく一瞬のショック死だろう・・・

運が悪かったのか
それとも運が良かったというべきか



考えは纏まらないが・・・動かない訳にはいかなかった
いつまでもこんな所には居られないし
何よりこんな場所を別の人物に見られればいらぬ動揺を引き起こすだろう

「・・・いらぬ動揺・・・ね・・・」

いらぬ動揺どころか、知人と思しき人物が自分の命を狙った
ここまで人生生きてきて、一番ショックだった
信じていたものに裏切られたのだ
ショックでないはずが無い

それも、自分の家族みたいな奴が、家族のような物になった奴を殺したんだ

頭だっておかしくなるだろう

確かに、操られているように見えなくも無い
が、それはこの場においてはあまりにも希望的観測過ぎる

誰だっておかしくなっても仕方ないし
事実俺だっておかしくなりそうだ

瑞音が止めなければさっきの時点でおかしくなっていただろうし
止めてくれたが、結局今おかしくなりつつある

どう動くのか・・・

いまだ纏まらぬ思考で考え付くのは1点のみ

「末莉も春花も・・・探してみるしかないな・・・」

何が起こってるにせよ
瑞音の言うとおり何かが変だとしても
会わない事には何も解らないのだ

それと瑞音の言ってた・・・和人・瑛・椿・・・だったか
も、探してみてもいいだろう

(ってか 俺、記憶力良いなぁ・・・)

そんなどうでもいい事を一瞬考え 瑞音を埋めた場所を立ち去った
木刀は作業中に折れたので墓標代わりに立ててある



そうやってゆっくりと司が歩いているのを
かなり遠方から顔に愉悦を浮かべながら眺めている者に
司は気づく事は無かった


16番 河原瑞音 死亡
【残り90人】







第2話「リターンアタック」

アイズカノン・・・俺はもう一度お前を止めてみせる・・・
既に放送で7人の死者がいることがわかった
マックスの話では少なくとも一人、あるいはそれ以上がカノンの手によって殺されている

・・・この事実を知ったときカノンはどういう反応をするのだろうか・・・

誓約が破れ狂気に走るか

自分を殺そうとするか

あるいは冷静に受け止めるか

最後のは俺の希望か・・・
出来ればそこで殺戮をやめ、俺達と行動を共にして欲しい
でなければ・・・もしあいつがそれを拒めば・・・俺自身の手で・・・


もう一度装備のチェックをする
手に余るグレネードランチャーは既に解体し、バラバラに埋めた
弾も同様に解体した後、火薬だけを厳重に保管してある
この作業はルシードは出来なかったので俺だけでやった
理緒がいれば最高だったのだが・・・まぁ無い物ねだりしてもしょうがない
結局二人の装備はマシンガンと手榴弾とスタン
今はルシードが眠り、俺が周囲を警戒している

・・・・・・・・・・ガサ
アイズ・・・来たか・・・
足音は殺そうとしているようだが・・・正直甘い
気配が手にとるように解る
アイズ起きろ
ルシード「ん?・・・んだ?
アイズ誰か来た、俺が行く ルシードはここで待っててくれ
ルシードあ、おい
ルシード何か言おうとしたが無視して敵に近付いていく




アイズ動くな!!」チャッ
??ヒッ やめてっ撃たないでください」
アイズ「手を挙げて動くな、俺も殺したい訳じゃない」

女は言うとおり手を挙げる、手も足も振るえまっすぐ立っているのも辛そうだった

アイズ「質問に正確に答えろ、何故ここに来た?」
??「た・たまたまです」
チャッアイズ「嘘をつくな、では何故足音を殺し、正確にこちらへ向かってきた?」
再び銃口を頭に向ける
??「ヒッ・・・め・命令され、あっちに人いるから行けって、行かなきゃ殺すって」
アイズ「誰にだ?」
??「知らない、女の人、メガネで三つ編みの」
アイズ「ふぅ・・・今ここでお前を帰したらそいつに殺されそうだな」
??「え?」
アイズ「少しの間こっちに来い、俺はお前が敵にならない限りは殺さない」
??「う・・・」
迷っている、まぁ無理もない
さっきまで銃口を突きつけてきた奴を信用しろというのだから

ルシード「てめぇ!!何者だっ!!」
アイズ「ルシード!?」
突然のルシードの怒声、そして三編に命令されたというこの女
・・・陽動か・・・

??「うぅ」
その隙に女は逃げ出した
アイズ「・・・まぁいい、先にこっちか」
急いでルシードのもとへ戻る



ぱらら
ルシードは木の陰から敵らしき者の隠れた木にに弾幕を張っていた
アイズ「ルシード、無駄弾は控えろ」
ルシード「アイズか?いや、敵は結構強力な武器だ、牽制しなきゃやばい」
アイズ「相手は?」
ルシード「きっとさっきの奴だ、お前の言うとおり取り返しにきやがった」
アイズ「やはりか・・・どんな武器を?」
ルシード「散弾銃だな、避けたつもりだが少し掠めた」
ルシードの傷口を見る、たいしたことはなさそうだ
アイズ「これくらいなら動けるな・・・俺が突っ込む、援護を頼むぞ」
そう言って俺は敵の隠れている木に駆け出す
ルシード「な?・・・くっ」
慌ててルシードが走り出す
ぱらら
牽制の弾幕を吐き出しながら右に回りこむ
視界の端でルシードが左に回り込むのが見える
ぱらら
さらに俺が銃弾を打ち込む、ルシードは一度も攻撃を加えないで隠れるように走っている
アイズ「!?」木の陰から銃口が覗く
その斜線から逃れる為に横に飛ぶ
ドンッ ぱらら
転がりながら弾幕を張り牽制する
先ほど立っていた場所の後ろの木に何十発もの鉛球がめり込む
再び敵の銃口が体制を崩している俺に向けられる
ぱらら 三編「ちっ、後ろもか!!」
三編は後ろのルシードに気がつき、懐から取り出したなにかを投げる
ルシード「くそっ」
ルシードはそれを銃身で思い切り払い飛ばし、伏せる
ドオオオオゥ ルシード「ぐぅっ」
それが爆発すると巨大な爆音と共に眩い閃光が溢れる

ぱらららららら
俺はカートリッジを交換すると先ほどまで三編のいた場所を闇雲に撃った
だが手応えはない
目が慣れた時には女の姿は小さくなっていた

アイズ「逃すわけにはいかない」
俺はルシードの意識があるのを確認すると三編を追って駆け出した
ルシード「あ、おい」
アイズ「ルシードはここに残っていろ、すぐ戻る」
それだけ行ってルシードの脇を通り過ぎ三編の影を追う
アイズ「危険な女だ・・・被害が拡大する前に潰す」




女の走りはそれほど速くない、追いついてきた
前を走る三編の脇に人影が現われる
アイズ「新手?」
さっきの女「きゃっ」三編「またお前か」
・・・あいつはさっきの子?・・・
止まりかけていた足を再び動かす
最悪の結果しか考え付けない
三編の銃口は現われた女の方に向けられた
アイズ「やめ  」 ドンッ
制止する間もなく その銃口から無数の鉛球が吐き出される
女の身体はその場に崩れ落ちる

ぱらら
俺が射程距離に捕らえて弾を打ち出すと三編は横に飛んで避す
??「きゃあ!?」
そして三編の転がった先に・・・別の女が隠れていた
三編は再び銃口を向けようとする
アイズ「くっ」
俺は急いで懐から取り出した円筒型の物を投げる
三編「ちぃ」
三編はそれに気付いて身を引き、また逃げ出した
ドオオオオゥ ??「きゃぁ」
激しい轟音とともに溢れる閃光
隠れていた女はそれで気絶したようが基本的に死ぬ心配はないはずだった
俺はそちらを見ずにさらに三編を追跡し始めた


41番 芹沢かぐら 死亡
【残り89人】







第3話「嫌な予感」

不安・焦り・嫌な予感
とにかく牧島麦兵衛(85)の中には嫌な感情しかない
先ほどの轟音と閃光、さらにその前に聞こえた銃声
ここからどうすれば明るい想像が出来るのだろう
胸の中が不安でいっぱいになる

これまではほとんど誰とも会わずにきた
先ほど流れた放送が今が現実だと解る唯一の要因だった
とても遠くから聞こえた爆発音・・・これは確かめに行けるような距離ではなかった
あれだけ離れていてあの音が聞こえたのだから相当の爆発だったのだろう
だが遠いという事でどうも現実味に欠けていた
だが先ほどの銃声と爆発音は十分に現実味が有った
100メートルも離れていなかっただろう
もしかしたら巻き込まれていたかもしれない

そして今その場所へと近付いている
ゆっくりと、周りを確かめながら近付く
先ほどから既に静寂が戻っていたのでおそらくは大丈夫だろうとは思ったのだが
はっきり言って怖い
今まで命に関わる事など何もなかった
当然だ、普通に生活していてはそんな経験など持っている方が稀だろう
ここに集められたのはほとんどが同じような奴のはずなのに・・・
だが確実にこの場所で殺戮が続いている

周囲に血の匂いが立ち込める
そして人影を発見する・・・見慣れた髪・・・見慣れた服・・・
麦兵衛「小町さん!?」
一瞬で心臓が爆発しそうになる
血の匂い、地面に倒れこんでいる小町さん
小町「う・・・ん・・・」
麦兵衛「小町さん!?」
良かった・・・生きてる・・・
よく見れば小町さんには血が一滴もついていない
そして首をめぐらすと・・・そこには血まみれの・・・
麦兵衛「う・・・」
思わず嘔吐感が沸き口を抑える
麦兵衛「こんな状況を小町さんに見せる訳には行かない・・・」
とにかく小町さんを移動させよう

麦兵衛「よっと」
眠ったままの小町さんを何とか背負う
軽いな・・・・・・う!!・・・この背中の感触・・・む・胸が・・・
イ・イカンそんな事考えては
く・・・
ゆっくり歩くと思考が堂堂巡りをするので結局全速力で走る事になってしまた
・・・く・・・これしきの事で心が乱れるとは・・・不覚・・・
・・・すみません、小町さん・・・

【残り89人】






第4話「問い」

クリス・・うぅ・・・リサさん・・・リオくん・・・みんな・・・・死・・死んだ・・・・・逃げ・僕も・・・きっと・・・・・死ぬ
  ・・・死・・死・・・・みんな・・・死・あの・・リサ・・・・死・・・僕・・・逃げる・・だ・・・死死・・

木の下でうずくまる少年
クリストファー・クロス(22)・・・リサ・リオの殺害現場に出くわしてからこの調子だった
それを近くで・・・ただし刺激を与えないように一定の距離をおいて見守る人影

トリーシャ「ねぇお父さん・・・どうなの?」
リカルド「身体的外傷はない、つまりは精神的ショックだな」
トリーシャ「精神的・・・」
リカルド「クリス君の呟きとさっきの放送をあわせればおそらくは・・」
トリーシャ「やっぱりあれは本当だったんだ」
こんな場所でも、トリーシャはどこかこの状況を信じたくなかった
リカルド「信じたくない気持ちも分かるが・・・これは現実だ、出来る限りの覚悟をしておけ」
トリーシャ「うん・・・」



二人の名は、お父さんと呼ばれた男がリカルド・フォスター(77)
呼んだ娘がトリーシャ・フォスター(76)・・・二人は親子である

二人がこの場で一緒なのは偶然でしかない

たまたま同じ場所に連れて行かれ
たまたま出発する順番が近く
たまたま間に出発する者が建物を出るなり一目散に逃げていって
たまたまリカルドが先の出発で娘を待つ度胸があった
偶然に偶然が重なった・・・その結果がこれだった
むしろリカルドは続きすぎる幸運に不安さえ覚えたものだ



トリーシャ「クリス君、どうしたら良いのかな?」
リカルド「む・・・心の傷は時間が解決するのを待つのが一番というが・・・時間も無いしな・・・」
トリーシャ「トリーシャチョップとか効果あるかな?」
リカルド「いや、むしろ恐怖が増す可能性が高いからやめておけ」
トリーシャ「はぁい」
そんな上張りの平穏を断ち切る足音がリカルドの耳に聞こえる

リカルド「・・だれか来たな・・・トリーシャ、下がっていろ」
トリーシャ「え?・・うん」
その音はトリーシャには聞こえないほど微かな物だ
だが、父の力をしっかりと認めているので数歩後ろに下がる

リカルド何者だ?こちらにやる気はない・・・そっちが来なければ・・・だがな」
そうリカルドが言うと木の影から男が現われた
男はまずリカルドとその後ろにいるトリーシャを見やり
少しは成れた場所で震えるクリスまで順番に見た後、口を開く
??「やる気がない・・・って正気か?この場所は殺る事が前提になっている場所だぜ?」
リカルド「だが、守りたい者がいればこうなるだろう?」
??「自分にとって守りたい者ってのは自分自身じゃないのか?」
リカルド「そうではない、命をかけてでも守りたいものは存在する・・・キミにはいないのか?」
??「!?」
リカルドの問いかけに一瞬反応する
??「さてね・・・それじゃもし俺が殺る気なら、あんたはそこの女と
  そこでうずくまってる奴とを守りながら戦うというのか?」
リカルド「そうだな・・・キミがその気ならそうする」
??「本当にそんな事できんのか?」
リカルド「やってみせるさ、キミが相手でも出来るだろう」
??「んだと?」

男がゆっくりと包丁を取り出す

それにあわせてリカルドは用意していた木の枝を削った物を取り出す

トリーシャはさらに一歩下がる

クリスは少し近付いてきたトリーシャに気付き顔をあげた
クリス「ヒッ!!」
驚きに彩られたクリスの声
その視線の先は・・・男の包丁があった
クリスう・・うわぁぁぁぁぁぁ
クリスは急に立ち上がりトリーシャの脇をすり抜け男へと突っ込んでいく
リカルドいかん」リカルドが反応するも遅すぎる

既にクリスは男の目の前まで進んでいる
男は冷静にそれを避すとクリスの足を払う
クリス「アッ!?」
その場に両手をつき、クリスの無防備な背中が男に向けられる
??「ふっ」
そこに向かってまっすぐと振り下ろされる包丁
ザスッ

・・・・・・

??「邪魔するのか?」
男が冷静に訪ねる
リカルド「あぁ」
それに対してリカルドも冷静に答える
男の包丁はクリスの上で、リカルドの持つ木の棒に刺さっていた
クリスは慌てて立ち上がり少し離れた木の下に再びうずくまる

その姿を目で追った後、男はまた口を開く
??「甘いな・・あいつは足手まといになるだけだぞ」
リカルド「甘くとも・・・私は、守りたい」
??「ふん・・・勝手にしな」
そのまま立ち去ろうとする男
リカルド「待て」
それをリカルドが止める
リカルド「これを返そう」
そう言ってリカルドは包丁を枝から抜き、男に返す
??「良いのか?今度はそっちのお嬢さんを狙うかもしれないんだぜ?」
リカルド「本気ではないのだろう?」
??「さてね、それじゃ俺は行かせて貰う、俺はあんたのように甘ちゃんにはなれないからな」
リカルド「名は?」
香介「俺は浅月香介(4)・・・高町亮子(57)ってのを見たら、その甘ちゃん魂で助けてやってくれ」
リカルド「いいだろう」
男はそのまま振り返ることも無く立ち去った



     *     *     *



トリーシャ「お父さん 良いの?」
リカルド「なにがだ?」
トリーシャ「さっきの子、武器も返しちゃって」
リカルド「あれは元々向こうの物だろう?」
トリーシャ「でも   
リカルド「それに浅月君といったか、彼は優しいさ」
トリーシャ「え?」
リカルド「クリス君を刺そうとしたのはこちらを試す為だろう」
トリーシャ「そうなの?」
リカルド「あぁ、彼なら真正面から包丁を突き立てることも容易いはずだ
  それに振りが大ぶりすぎる、止めてくれといっているようなものだ」
トリーシャ「へぇ」
リカルド「それに彼にも守りたい者がいるようだ
  あのような者ばかりなら殺し合いになどならないだろうがな」
トリーシャ「そうだね・・・」
二人のその願いは虚しく
二人の目に見えずとも
この場所での殺し合いは確かに続いていた

【残り89人】






第5話「疑問」

鳴海歩(67)とマクシミリアン・アーセニック(3)は数メートルを挟んで対峙していた

「そっちはこのゲームに乗っているのか?」
鳴海歩は警戒した口調で聞く

マックス「いや、そのつもりはありません」
それに対してやはり警戒しつつも、本心で答える

「ふぅ、やっとまともな奴に会えたか」
その答えと、語調に少し安堵した歩から軽い溜息が漏れる

「そっちの名前は?」
マックス「マクシミリアン・アーセニックです」
「・・・おい冗談か?、それは大昔に活躍したとされている半ば伝説化している人物だぞ?」
マックス「え?」
「・・・まさか・・・まさかとは思うが・・・フローネとか言う人を知ってるか?」
マックス「ッ!?・・・何故その名を・・・」
「・・・マジか・・・まさか歴史上の人物に会えるとはね・・・
マックス「どういう・・・ことですか?」
「さぁ?とりあえずあんたらとこっちはまったく時代が違うって事しか解らん」
マックス「はぁ・・・」
これも兄貴の仕業なのか・・・兄貴は何を・・・
マックス「・・・きっとその辺りは今ここで考えても解らないでしょうね、それよりそっちの名前は?」
「鳴海歩だ」
マックス鳴海!?・・・って、アイズさんを知ってますよね?」
「アイズ・ラザフォードに会ったのか?」
マックス「えぇ、ほんの少しの間だけですが・・・それならあなたに話すべきことがあります」
「なんだ?」
マックス「カノン・ヒルベルトの事です、アイズさんに伝えるように言われました」
「カノンか・・・聞かせてくれ」



先ほどアイズさんに伝えた事を再び伝える、アイズさんの考えも含めて



「そうか・・・カノンは・・・まんまとはめられたな」
マックス「まぁそうでしょうね」
「その辺りがこの状況で殺しが行なわれている原因か・・・」
マックス「ん?」
「・・・あんたは不思議に思わないのか?この状況?」
マックス「どういうことです?」
「今現時点で7人の人物が死んでいる・・・普通に考えるとかなり不自然だ」
マックス「そう・・・ですか?」
「あぁ、俺は出発してから2人の人間しか見ていない
 一人目は少し見かけただけで逃げていったし、二人目はあんただ」
マックス「運がよかったって事じゃないんですか?」
「そうかもしれない、だがココに集められたのはほとんど全てが
  今まで殺しとは無縁で生活してきた者たちだ。俺だけが特別例外ではない
  おそらく他のほとんどの者達が俺と同じような状況にあるはずだ」
マックス「そうですね」
「そして、このまま行くと殺しがほとんど進行しなくなる」
マックス「えっ?」
「解散直後は皆が建物に密集しており遭遇しやすいはずなんだ
  そんな状況で7人・・・たった7%しか減っていない
  今頃はおそらく全員の場所がだいたいバラバラになり数人でのグループも出来たろう
  そうするとコレまでよりも遭遇率は減り、みな冷静になる
  だからこのまま行くと奴らが何を考えているかは解らないが、目的の達成は困難だろう」
マックス「・・・なるほど」

「俺たちはどういう状況だ?」
マックス「え?」
突然の話題転換にどう答えていいか悩む
「俺たちはこの島でどうするべきだと言われた?」
マックス「他の全員を殺せって言われましたよね?」
「そう、それが勝利条件だったな・・・だがそれでどうなる?」
マックス「えっ?」
「勝利条件・・・それを満たしたらどうなるのか・・・さっぱり解らない」
マックス「あ・・・」
「確かに無事に帰ることが出来るのかもしれない・・・が、保障は無い」
マックス「そうか・・・」

「それに他人を殺せと大それた命令を出したくせに強制力がまるで無い
  1日以内に他人を殺さないとそいつはどっかに仕掛けられた爆弾で死ぬとか
  とにかく殺しを強要する力が無い・・・これは異常だ・・・
  唯一の強制力が食料という所だろう
  支給された食料は少ないから奪おうとして他人を殺すものがいるかもしれない
  だがその程度だ、強制力としては弱いし
  ある程度のサバイバル知識があればこの場所でも食料を得る事は可能だ」

鳴海歩・・・目の前にいるのは自分よりおそらく年は下だろう
戦闘能力も間違いなく自分の方が高い
だがその論理はまったく口出しが出来ないほどの的を射ているように思える
「さらに、支給された地図だ」
マックス「地図?」
「そう、この支給された地図・・・まるででたらめだ」
マックス「そうですね、既にこれには頼ってませんし・・・」
「ちょっと見せてみろ」
そう言って歩君も地図を取り出す
二人で地図を見せ合う
「違うな」
マックス「そうですね・・・まったく違いますね」
二人の持つ地図はまったく違う地図としか思えないものだった
「・・・やはりか・・・この地図は数種類あって集めれば何か意味を持つかもな」
マックス「そうなんですか?」
「いや、ただの勘だ」
マックス「う・・」
「まぁそうでもしないと向こうがこの地図を用意した意味がない気がしただけだ・・・
  話を戻すが・・・この地図が正確でないことなどすぐにばれる
  徒党を組めば地図を見せ合うだろうし
  そんな事せずとも地図どおりに歩こうと思えば嘘に気付くだろう
  これも殺しを抑制する働きが強まる
  徒党を組んだ状態で地図の嘘、管理者の嘘に気付けば不信感が高まる
  勝利条件にも疑問を持ち始めるかもしれないし
  そうでなくても管理者に敵対する者が出るかもしれない
  それに気づいた者達はさらに味方を集めてしまう
  それは向こうにとって都合が悪いはずだ・・・少なくともいいはずが無い」
マックス「そうですね・・・これから僕も会う人たちにこのことを教えるでしょうし・・・」
「まぁ・・・向こうの都合のいいように考えれば・・・
   地図を集めれば何かあるかもしれないと考え殺しをする者がでるかもしれないが  
マックス「はっきり言って都合よすぎですよね」
「だな、そんな事を期待するぐらいなら他の強制力を用意すべきだ・・・
  そして最後にこのフィールド自体がおかしい」
マックス「え?」
「この場所・・・島とは考えられない
  いや、どんな大陸でも必ず海に囲まれているのだから島といえば島だが・・・
  とにかく、『島』という表現で表される場所であるはずが無い」
マックス「そう・・・なんですか?」
「あんた、今まで結構移動したんだろう?海を見たか?」
マックス「いえ、そういえばありませんでした・・・」
「だろうな・・・植物や地面、風、空を見る限り・・・
  どう見積もっても海が近くにあるとは思えないんだよ」
マックス「・・・どういうことなんでしょう・・・」
「さぁな、そこまでは解らないが、これはおそらく事実だ」
マックス「・・・じゃぁこのフィールドはほとんど無限に広がってるって事ですか?」
「・・・そこが俺も疑問なんだ
  もし広い土地でこんな事をすればほとんど他人と会う可能性は0に近くなるはずだ
  しかもさっき言ったように今7人しか減っていない
  それでフィールドが広ければこの計画事態が頓挫するはず・・・」
マックス「ですよね・・・」
「さらに殺しが進むにつれて他人と会う可能性は劇的に少なくなる・・・
  これは向こうとしてはかなりのデメリットのはずなんだ・・・」

マックス「・・・・・・結界?」
「何だ?」
マックス「ここは使えるはずの魔法が使えないように結界が張ってあるんです」
「魔法?」
マックス「はい、あなた達はありませんよね?、アイズさんも言ってましたし」
「・・・そうか・・・俺は余りそういうのは信じないんだが・・・状況が状況だ・・・で?」
マックス「だからおそらく移動を制限する・・・
  またはある程度まで歩くとループするように空間をねじ曲げているのかもしれません」
「・・・・・・そうだな、少し信じ難いが・・・現時点ではそれしか考えられないだろうな・・・」
マックス「それで、最初に言ってた不自然さって言うのは解りましたけど
  歩君はどう考えているんですか?」
「カノンがいい例だろうが、同じようにはめられている人物
  もしくは始めから殺しを進行させるように命じられた者がいるはずだ」
マックス「でもそれじゃその人たちだけがどんどん人を殺していく事になりますよ?」
「そうだな、それじゃ向こうも面白くないだろう・・・だから条件を決めればいい
  例えば・・・2人組みのうち片方だけを殺して片方を逃がしたらどうなる?」
マックス「そうか・・・」
「怨みを持った人物はいくらこのフィールドが広かろうと探そうとするだろう
  こんだけ非現実的な事をしている連中だ、他にもいろいろやれるだろう
  他人に扮して誰かを傷つけ怨みを買わせるとか・・・考え出したらきりが無い」
マックス「・・・歩君はこれからどうするんですか?」
「俺はまた誰かを見つけて同じ話をするだけさ」
マックス「解りました、僕もそうします」
「そうしてくれると手間が省けて助かる」
マックス「一人でも大丈夫ですか?」
「あぁ、これでも兄貴にサバイバルの本を数10冊は読まされた・・・何とかなるだろう」
マックス「解りました、死なないで下さいね」
「あぁ・・・・・・・・・おそらく俺は死なないさ・・・これが兄貴の企みならな・・・
  俺はまた踊らされる為にここに配置された・・・今度も跳ね除けてみせる・・・

歩の呟きは既に立ち去っていたマックスには聞き取れなかった
鳴海歩はまた当ても無いまま歩き始めた

【残り89人】






第6話「誓えるの?」

アレフ・コールソン(24)はかつてないほど落胆していた
コレまで交際した女の子の人数は数え切れないほど
その中には失敗した話なども数多く存在する
だが、これほどの落胆は味わった事がない
アレフ何で最初に会ったのがお前なんだよ!!
アル俺が知るか!!
はっきり言って言いがかりも甚だしい文句に対して律儀に突っ込みを入れる
アルベルト・コーレイン(25)はとても付き合いがいい人だった

アレフ(女役)「アレフ君、助けてくれてどうもありがとう」
アレフ「いやぁ、君の為なら例え火の中水の中どこへでも助けに行くよ」
アレフ(女役)「ありがとう、ひしっ」
・・・・・
アレフっていう俺の計画がぁぁぁぁぁ!!
アル「知るか んなモン、っていうか気色悪いから一人芝居は止めろ」
アルベルトは心底あきれ返ったような顔をした
だが内心ほっとした部分もある
こんな所にいてもなお、変わらないでいてくれたというのは一緒にいて心強い
アレフの方もお調子者ではあるが決してアホではない
むしろ頭を回転させるのは得意な方だ
そうでなくては複数の女の子と、平等に付き合うことなど出来はしない
アルベルトを最初に見た時、腕の傷を見て驚いた
もしかしたらアルベルトは既にゲームに乗ってしまった人間かもしれない
そんな疑念が頭をよぎった
それが杞憂と解った安堵感があるからこそ彼はおちゃらけた台詞も言えるのだ
こんな場所で本気で女の子と仲良くなる計画を立てるほどアホじゃない・・・と思う


アレフ「にしてもその傷を負わせてきた奴、どうしたんだ?」
アレフはひとしきり文句を並べ立てた後、多少真面目な顔になって訪ねた
アル「なんかその子と関係が深そうな女の子がでてきて、任せろって」
アレフ「それでお前はその女の子を見捨てて逃げたのか!?」
アル「しょーがねーだろ、こっちは一刻も早く手当てしないとやばいんだから」
アレフ「ん〜〜〜 で、その手当ては自分でしたのか?」
アル「まさか、なんか不良っぽい医者っぽい奴が手当てしてくれた」
アレフ「なんだそりゃ?」
アル「白衣は着てるんだが・・・くわえタバコだった」
アレフ「はぁ・・・医者っぽくて・・・不良っぽいな・・・そりゃ」
アル「まぁあんな奴がいるなら・・・きっと何とかなるかもな」
アレフ「だな、ほとんどの奴はそうだと思うぜ」
アル「で、アレフ お前はこれからどうするんだ?」
アレフ「もちろん女の子達を探して守るさ、そのために怖い思いまでして歩き回ってるんだから」
アル「ったく、相変わらずだよなぁ お前は」
アレフ「あぁ・・・俺の生きがいだ  
アル「ん?どうした?」
突然言いよどんで辺りを見回し始めたアレフを見て不思議に思って訪ねる
アレフ「・・・女の子の気配」
アル「はぁ?」
アレフ「俺には解る・・・近くに女の子がいる」
アル「・・・俺には何にも感じられないが・・・勘違いじゃないのか?」
少なくともアルベルトは戦闘的な面においてはアレフより秀でていると思っている
自分に感じられないほどかすかな気配を、アレフが会話中に感じ取れるとは思えなかった
アレフ「・・・・・・そこぉ!
アレフが指差した瞬間、アレフの真後ろの茂みが一瞬揺れた
アレフ「・・・解っていたさ、解っていたとも」
あさっての方向を指差しながらも言い訳を続けるアレフ
それを無視してアルベルトがそこにいるであろう人に呼びかける
アル「こっちは襲うつもりはない・・・出来れば出てきて話をしないか?」
言いながらいつでも戦闘体制に入れるよう細心の注意を払う
一度襲われている以上、慎重にならざるをえない

アレフ「アルベルト、んなに緊張した声で話したってダメだろうが、脅えてるぞ」
アル「どうしろってんだよ・・・」
アレフ「そこにいるお嬢さん、こっちは何もしませんよ、むしろあなたを守る為にいると言っても良い存在、怖がらずに――」
うるさい黙れ
アレフの説得が氷のような冷静な声で遮られる
「なっ・・・」
アレフもアルベルトも二の句が告げなくなる
茂みの中から現われたのは高屋敷青葉(58)であった
彼女はそのまま二人に向かって話し始めた
青葉「何もしないですって?その言葉、本気でそう思ってる?」
アル「あ・当たり前じゃないか」
アルベルトがどもりながらも答える
青葉「神に誓って、天と地に誓って、
   法的実行力をもった誓約書にサインと母音を押した物に誓って、
   インディアンの掟に誓って、ハンムラビ法典に誓って、アッラーにコーランに誓って、
   イエス・キリストに新約聖書に誓って、リグ・ウェーダに誓って、
   阿弥陀如来以下全ての如来・菩薩等などに誓って、やおよろず八百万の神々に誓って、
   あなたの命に誓って・・・・・・本当に何もしないって、そういうのね?」(パワーアップver)
アル「ウッ・・・」
アルベルトが気圧されかける、が、
アレフ「あぁ、そうさ」
まったく動じずにアレフが答える(正直ほとんど解らなかったが・・・)
青葉「なッ!?」
今度は青葉が気圧された
まるで不愉快な人物を何となく思い出させる
アレフ「俺は君に対して危害を加えるつもりなんて毛頭ないよ」
さらにアレフは青葉に対して語りかける
青葉「・・・それじゃあ・・・」
言いながら青葉はアレフに近付いていく
アル「お・おい」
アルベルトが間に割って入ろうとするがアレフがそれを制す
アレフ「いいから、俺に任せておけって」
どこからその自信がわくのか
アレフ自身も不思議だった
ただ、この子を止める
その意思だけがあった

そして青葉とアレフの距離がほとんどなくなる
突然青葉がポケットに突っ込んだ手を出し、アレフに向ける
その手にはペーパーナイフが握られていた
その刃先がアレフの喉元に突きつけられた
そのままの体制で青葉は冷たく言った
青葉「コレでも・・・そんな事言ってられるの?」
アレフ「あぁ」
アレフはまったく動じずにまっすぐに瞳を見てそういった
その姿はまるで英雄のようであった

だが内心は
(おい、やべーよ、殺されちゃうよ、でも俺ってもしかして今輝いてる?あぁコレで死ぬのは嫌だけどきっとこの女性は俺の優しさに気づいてメロメロ(死語)に・・・)
という感じだった・・・

脅しているはずの青葉の手が迷ったように微かに震えた・・・だが、
青葉「それじゃ・・・死になさい
冷たく言い放つと同時に手に力が込められる
アレフ「え?」
アレフの間の抜けた声
そして気づいた
青葉は本当に『殺る気』だと
喉に一瞬冷たい物が触れる
が、それが突き刺さる前にアルベルトは動いていた
いくらなんでもかっこつけて仲間が死んでいくのを見ているほど薄情者ではない
アル「やめろ」
アルベルトの豪腕が青葉の細腕を掴む
青葉がいくら力を入れてもピクリとも動かない
それほどの力の差が両者にはあった

青葉「まったく・・・手を出す気はないんじゃないの?」
アル「わざわざ死ぬ程、お人好しじゃないんでね」
そんな光景を見ながらアレフは平然とした様子を見せていた
だが内心はとてつもないほどに安堵していた
そして命の心配がなくなるとすぐにどうやって説得するかを考え出した

青葉「どうするの?ココで私を殺す?」
青葉が冷たく言う
アル「なっ?」
予想外の言葉
確かにそうした方が良いのかもしれない
そして自分にはそうするだけの力が有る
アル「・・・・・・」
アレフ「んな事する訳ないでしょ」
悩んでいるアルベルトに代わってアレフが軽く答えた
アル「なッ!?お前!?何言ってんだよ!殺されかけたんだぞ?」
困惑しながらアルベルトが怒鳴った
アレフ「だったら・・・この子をこの場で殺すのか?」
アル「う・・・」
そうはっきりと言われるとアルベルトは困った
確かに殺したくはない、だが野放しに出来ないのも事実

アル「くっ・・・だが、どうするんだ?放っておくのは危険だぞ」
アレフ「そうだなぁ・・・・・・・・・っ!!」
思案するアレフの視界に『何か』が見えた
アレフ危ねぇ!!伏せろ!!
そう叫ぶと同時に青葉とアルベルトを押し倒す
その頭上を何かが掠めていく
アル「な・なんだ?」
アレフ「知るか!!逃げろ!!」
アルベルトは慌てて走り出す
アレフ「ほら、君も!!」
青葉「えっ?」
アレフ「早く!!」
動こうとしなかった青葉の手を強引に引いてアレフが駆け出した
その手を振り払うこともせずに青葉は黙って走り出した



数十分は駆けただろうか・・・いや、数分程度だったのかもしれない
とにかく誰も追っかけてくる気配がなかったので3人は立ち止まった
アル「・・・なんだったんだ・・・」
アルベルトが呟く
アレフ「知るかよ」
アレフはぶっきらぼうに返事をしながら青葉を寝かせる
立ち止まったというより立ち止まらざるをえなかったのだ
青葉は大量の汗をかき、呼吸するのさえ大変そうだった
アレフ「ったく・・・なんだってんだ・・・」
アル「・・・とにかく水だ、こんなに汗をかいたら脱水症状になるぞ
  アレフ、お前の水残ってるか?」
アレフ「いや、ほとんどない」
アル「俺のもほとんどない、この娘のもないようだ」
アレフ「あ!!人の荷物を勝手に漁るなよ!!」
アル「非常事態だ。とにかくこの辺りに水がないか探そう」
アレフ「・・・アルベルト、お前は残ってろ、俺が探しに行く」
アル「はぁ?」
アレフ「ココに一人で寝かせておく訳には行かない、お前は怪我もしてるんだからおとなしく見張っててくれ、少なくとも歩き回るよりはいいだろう」
アル「・・・お前って時々すごいかっこいい台詞吐くよな」
アレフ「コレが俺の地さ、女性のためならな」
アル「その一言が余計だ」
アレフ「とにかく行って来る、頼んだぞ」
そういうとアレフは二人から離れて水場を探し始めた


アレフ「ふっふっふ・・・このことを後で聞けば・・・好感度アップか?」
とまぁアレフはいつも通り、そんな調子だった




アレフ「水か・・・そんな都合よくなぁ・・・」
カノン「一人になったね」
アレフ「なっ!?」
突然アレフは後ろから声をかけられた
アレフだれだっ!!
カノン「さっきは良く気づいたね、少し予想外だった」
アレフ「な!?さっきのはお前か」
カノン「そう・・・悪いけど少し眠ってもらうよ」
そう言うとカノン・ヒルベルト(74)は麻酔銃のスライドを引いた
そして恐怖を増大させるようにゆっくりとアレフの胸に照準を合わせる
   終わりか   
アレフは意外なほどに落ち着いた気持ちでそれを見ていた
案外あっけない終わり
出来る事ならアルベルトがあの女性を守ってくれるとありがたい・・・
引き金にかかった指にゆっくりと力が込められる
待ちたまえ!!
カノン「ッ!?」
カノンは銃口を声のした方向に向ける
「君の悪事、全て見させてもらった!!」
・・・見てたんならもっと早く助けろよ・・・
アレフは心の中で毒づきながら突然現われた男を見る
カノン「・・・誰だ・・・」
カノンは呟くように尋ねる
名乗るほどの者ではないがぁ〜名乗っちゃおう!!
・・・どっちだよ・・・
「わが名は(ラウ・)家輝(カーフェイ)(94)、中華料理屋ロンロン龍龍の店長代理だ、ヨロシク」
カノンは呆然とした様子で男を見ていた
だがそれは助けられたアレフも同様だった
この軽いノリ、決して自分は重いノリではないが・・・ココまでではないと思う
カノンは黙って麻酔銃を劉に向けた
「ノンノン、そんな物 私には効かないよ、なぜなら   
パン
言い終わる前に破裂音がした
男は無理な体勢になりながらもぎりぎりそれを避けていた
「アイヤー、人の話は最後まで聞こうよ」
カノンは無言で麻酔銃のスライドを引いて再び照準を合わせる
パン キィン
アレフ「なっ?」
アレフは目の前の信じられない光景に思わず息を呑む
劉は懐から取り出した円盤状の物ですばやく銃弾をガードした
それは神業ともいえるスピードだった
「そんな単発式の銃など当たらないね、なぜなら」
そして手に持った円盤状の物を高く掲げた
「この『大宇宙超真理曼陀羅』の証が僕を守ってくれるからね」
・・・・・・・・・
「君も入会して見ないかい?」
アレフ「え?俺?」
劉は突然アレフに呼びかける
「『世の中とにかく面白い』を合言葉に面白おかしく生きようという教義の下   
パン キィン
   今なら入会金はタダ、月々たった100円の会費と少量の寄付金で   
パン キィン
   どう?」
会話の間に無言でカノンが銃弾を打ち込むが、そのトークは中断される事がない
・・・だいたい少量の寄付金ってのが怪しいだろ・・・
「さぁ、そこのカノン君だったか?君もどうだい?」
カノン「・・・確かに単発だと防御されるらしいね、弾も勿体無いし・・・」
勧誘をさらっと流して懐から銀色に光る小さなものを幾つも取り出した
アレフ「・・・鍵?」
どこか見覚えのある物にアレフが反応した
カノン「拾ったんだけどね、コレを全部ガードできるかな」
カノンはそう言って投げナイフの要領で鍵を投げた
「なんの!!」
劉は鮮やかに避すと曼陀羅を懐にしまった
「ふぅ・・・勧誘失敗か・・・」
微妙にこの場に似つかわしくない言葉を呟き、カノンの方に向かって構えた
「さぁ・・・来たまえ」
その声と同時にカノンは次の鍵を投げ飛ばした
アレフそれ俺の鍵だろ!!何しやがる!!
アレフの絶叫を無視して二人の攻防は始まった
「アイヤー」
どこか中国人を馬鹿にしたような掛け声と共に全ての鍵を次々にキャッチした
「こんな物が役に立つとでも思ったかい?」ガチャン
そう言いながら劉はキャッチした鍵を地面に叩きつけた
アレフおれの〜〜〜〜!!粗末にすんな〜〜〜〜!!

少しの攻防の後、カノンは急に攻撃を止めた
カノン「まったく・・・この島は退屈しないね・・・僕がてこずるなんてね・・・」
「君は強い、が・・・それでも大宇宙超真理曼陀羅の加護に有る私を倒す事は出来ない」
カノン「ふふっ、そういう事にしておこう、入会はしないけどね」
「今なら抗菌まな板に高級桐タンスまでつけるよ?実は有料だけど」
はっきり言ってアレフは付いていけなかった
さっきまで命のやり取りをしていたと思ったら急に世間話だ
・・・頭がおかしくなりそうだった
カノン「今は引こう、できれば誰かと争って共倒れしてくれるとありがたいんだけどね」
「おととい来やがれ、このビッチ野郎!!」グシャッ
劉は走り去るカノンの背に向けて怒鳴りつつ足元に転がった鍵を踏みつけた
アレフやめてくれ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
それと同時にアレフの絶叫が辺りにこだました
もうアレフは精神崩壊の一歩手前だった

【残り89人】






第7話「何故?」

ったく・・・アレフの奴・・・大丈夫かな・・・
怖いくせに無理しやがって
アルベルトは倒れるようにして眠った女を見張りながら周りに神経を集中していた
最初は苦しそうにしていたが次第に落ち着き、ただ眠っている


青葉「ん・・・うん・・・」
ほどなくして女が目覚めた
アル「寝とけ、まだ辛いだろ」
起き上がろうとする女に声をかける
青葉「結構よ、もう平気だわ」
アルベルトの忠告を無視して立ち上がるが、すぐに足元がふらつき膝をつく
アル「だから言ったろう、寝なくてもいいが、座っておけ」
青葉「・・・」
女は一言も話さずにその場に座り込む


そして・・・


アル「なぁお前   
青葉「うるさい黙れ」
アル「・・・」

そんな微笑ましいやり取りが数回繰り返され、ついにアルベルトは我慢の限界に達した

アル「いい加減にしろよな!!助けてもらっておいてそれはないだろ!!」
青葉「頼んでないわ」
アル「なっ!!」
青葉「いい迷惑よ」
アル「く」
青葉「大体『助けてやった』って何様のつもりよ」
アル「う」
青葉「あなたみたいのを・・・『偽善者』とでもいうのかしら?
アル「・・・・・・」
口では勝てなかった・・・っていうか完敗だった

・・・あぁアレフの奴早く戻ってこないかな・・・
アルベルトは切に願っていた
もうこの沈黙には耐えられない・・・
女は座り込んだまままったく動かず
声をかけると

青葉「うるさい黙れ」

と元気な声で返事をしてくれる
アレフならこう言う女に話し掛けるのも上手いだろう
俺にはそんなスキルはない

ふと見ると女は周りを見回している
アル「・・・逃げようとは、思うなよ」
青葉「・・・」
今までとは違う反応、図星だったようだ
アル「アンタは逃がしたら何する解らねぇ、この島には守りたい奴がいる・・・
  例え偽善だろうがなんだろうが、それだけは守る、野放しにはさせねぇ」
青葉「だったら・・・さっさと殺せば良いのよ」
アル「やなこった、んなことして守れても後味が悪い」
青葉「甘いわね、目的の為ならば躊躇せずに殺るべきよ
  2つの物を同時に追っても・・・どちらも逃がすだけよ」
アル「もしかしたら、二つとも守れるかもしれんだろう?」
青葉「両方とも失うわ」
アル「そうとも限ら   


      パン      


青葉「?」
微かな破裂音・・・女には聞こえていないのか・・・
青葉「何?急に」
アル「いや・・・なんでもない」
そういえばアレフの武器は何だ・・・あいつが拳銃で無ければコレは襲われた音だ
いや、あいつが銃を持っていてもソレを使う事態になったって事だ
・・・助けに行くべきか・・・

青葉「・・・」
女はそんな俺の様子をみて周りを気にし始めた
俺の耳には数度の破裂音が聞こえるが、女にはそれでも聞こえない・・・か、聴覚の違いか
俺ですら微かに・・・こんな場所で無ければ聞き逃すような音だ・・・
とにかく今はこの場にいるべきだろう
襲われたのがアレフとは限らない
俺たちが動いたらアレフが迷う事になるかもしれない
・・・最悪襲われたのがアレフだとしても・・・やはり全員を危険にさらす訳には行かない・・・
勘のいいあいつだ・・・きっと逃げてくれる・・・
最悪・・・こっちも逃げる用意をしておく必要があるか・・・



どれくらいの時間が流れただろう
俺は回りの様子を探るのに神経を集中し、そんな俺を見て女も周りを警戒している
・・・もう既に破裂音は聞こえてこない・・・
冷静に考えてみると・・・アレフが襲われた銃声だと仮定すると音が小さい気がする
あの短時間でそれほど移動できたとは思えない・・・おそらくは・・・大丈夫だろう・・・



さらに数分が過ぎていた
何者かが近付いてくる気配
女にも注意を促しいつでも逃げられるようにする
が、アレフの声が聞こえ、警戒が安堵に変わる
アレフ「お〜〜い、アルベルト〜〜」
周りを気にしてかそれほど大きな声ではないが、確かに聞こえた
アル「こっちだ」
物陰から立ち上がりアレフを呼ぶ
アル「って、誰だ?」
アレフの脇に良くわからない男が立っていた

アレフ「一応・・・助けてくれた人」
「劉家輝だ、ヨロシクb」
親指をグッと立てて陽気に挨拶してくる・・・正直言って苦手な相手だ
青葉あ!あなた!!
今まで感情らしい感情を見せなかった女が始めて驚きをあらわにした
「お、これはこれは、君は司君のところの・・・」
アル「この女を知ってるのか?」
来訪者は女の知り合いだったらしい、この男は苦手なタイプだが正直助かった
アル「そういえばアンタ、名前なんていうんだ?」
女の名前を聞いてなかった事に気づき訪ねる
青葉「私は佐藤花子よ」 「彼女は高屋敷青葉女史だよ」


・・・・・・・・・・異なる二つの名前が同時にあがる


女は男をキツと睨む
「いやいやいやいや、はっはっはっは・・・そうそう彼女の名前は佐藤花子さ」
アル「まぁいいか、で、劉・・・さんだっけ?アンタはどうするつもりなんだ?」
ココで押し問答をしてもしょうがないと思いアルベルトが男に尋ねた
「私かい?う〜ん、特に当てがあるわけじゃないからねぇ」
アル「それじゃ   
アルベルトが女を押し付けようと言おうとした瞬間に劉は口を開いた
そうだ!僕も君たちと一緒に行こう。うん名案、名案が明暗を分けた、なんちて」
アル「な・・・」
アルベルトは瞬間絶句する
だいたい女だけで手いっぱいだってのに
こんなそりの合わない男まで加わるってのか・・・
アレフまぁいいんでないの?
アルなっ、おいアレフ   
アレフこの劉・・だっけ?性格はともかく腕は良いし、俺はいいと思うよ
アルあ、お前でも一応変な性格だとは思うのか
アレフいや、さすがの俺もついていけないって

「話はまとまった?」
しばらくアルベルトとアレフが内緒話をしていたら劉が声をかけてきた
アル「あ・・あぁ おい、アレフ本当に良いんだな?
アレフ大丈夫だって
アル「んじゃ二人ともよろしく頼む・・・ってあれ?女は?」
「ん?山田花子女史ならもう行ったよ、もう団体行動はいやだって」
アル「マジか!?今まで繋いどいた意味ねーじゃねーか
  ・・・ってさっきはサトウって言ってなかったか?」
「・・・いやいやいやいや・・・それはその・・・あれだよ、ほら――」
アル「まぁいいけど・・・」
「そう細かい事を気にしてはいけないよ、前向きに歩いていればいつかいいことはあるさ」
アル「・・・ってアレフ?どうした?」
アレフまた男・・・男所帯・・・ナンデコンナコトニ・・・
  たった一輪の花さえ奪われてしまったのか
  っていうかあの変人を引き止めた意味ないじゃん
  嗚呼俺は何でこんなところでこんなことをしているんだろうか・・・・・・・・・・

アレフはまたも精神に異常をきたしそうになっていた

【残り89人】








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