第3部『狂』

第1話「狂気の中で」

お兄ちゃん・・・お兄ちゃん・・・お兄ちゃん・・・
薄暗い森の中を一人の少女が苦しげに歩いていた。
胸元に添えられた手は激しく上下し、彼女の鼓動の早さを物語る
ふらつく足取りで彼女はゆっくりとだが前へと進む。何かにとり付かれたかのように
少女「お兄ちゃん・・・・どこ・・・」
瞳には正気の光は無い。だらりと下げられた左手には鈍く光るナイフがあった
がさがさと下草を踏み分ける。鋭利な葉を持つ草がむき出しの足を傷つける
だが、少女は立ち止まろうとはしない

 ・・・と、数メートル先に人影を見つけた
木の陰に隠れてよく分からないがシルエットから子供だと想像できる。
少女「お兄ちゃん・・・・!!」
少女の瞳にはどのように見えたのか・・・
明らかに少女よりも小さな影へ無我夢中で走り寄った
少年「うわっ!」
少女「違う・・お兄ちゃんじゃない!!」 
 突然目の前に現れた少女に驚いて少年が腰を抜かす
さらに少女の手にはナイフが握られているのを見て声にならない悲鳴を上げながら後退する

その様子をじっと見つめていた少女はにんまりと笑みを浮かべるとナイフを持つ手を上げる
少女「あなたも私とお兄ちゃんを邪魔するのね」
 唇に笑みを張り付かせたまま少女が少年へと迫る
少年「ち、ちが・・・」
ずるずると後ろへと下がる
ポケットの中には最初のバッグに入っていたスタンガンがあったが少年にはそれを取り出す余裕は無かった
少女「うふふふふ・・・」
少女が少年の喉下にナイフを差し入れようとしたそのときだった
??リオ!」 
少女の後ろから大柄な女性が現れた。手には少女よりも若干長めな戦闘用ナイフが握られている
リオ「リサさん!」
少年が安堵の表情を浮かべる

リサ(88)は元々戦士である、そこらの女の子が戦いを挑んだとて勝てるわけが無い
少なくとも この時リオ(70)はそう思い、安堵していた

だが、数瞬後には驚愕に変わっていた。
少女お兄ちゃん・・・
虚空を見つめ恍惚の表情を浮かべる少女の後ろに喉元をかききられたリサの死体が転がっていた
少女の服は返り血でべったりと赤く染まり。前髪からはぽたぽたと血が落ちる
たぶん即死だったであろう
地面に広がってゆく黒い染みをぼんやりと眺めながらリオは呆然と、ただその場から動けなかった
辺りに濃密な血の匂いが広がる。にまぁと少女が笑みを浮かべるのを最後にリオの視界は暗転していった・・・・


70番 リオ・バクスター 死亡
88番 リサ・メッカーノ 死亡
【残り95人】








第2話「疾風のにゃんだばぁ」

今、可憐なにゃんこちゃんは一陣の風となって森の中を走る
一ノ瀬木葉(9番)は一時の仮の姿、そしてその正体はみんなの味方
地球の平和を影に日向に日向に日向に守っている我らがヒーロー『すーぱーにゃんだばー(00番(仮))』
森の中を失踪するそのスピードは風の如く
そう、目的はただひとつ・・・
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
・・・忘れたのです・・・
いえいえいえいえ忘れたわけではないのです
ただ『ごくひにんむ』ですから言えないだけなのです
そう、コレは例え読者とあっても教える訳には行かないほど極秘なのです

という訳で行くのです
それでは・・・すーぱーにゃんだばぁ、こだまばーじょん!
ごー!!

??「木葉ちゃん?」
木葉「って・・・ダレなのですかにゃんだばぁの出発をじゃまするのは?」
??「やっぱり木葉ちゃん・・・」
木葉「おやおやまあまあなんとなんと真魚ちゃんではありませんか」
真魚「よかった、無事だったんだ」
木葉「はい、にゃんだばぁは『えいえんにふめつ』なのです。ところで美魚ちゃんはどうしたのですか?」
真魚「今寝てる、もし良ければ木葉ちゃんも一緒に居ない?」
木葉「いえいえお誘いは嬉しいのですがにゃんだばぁには大切な使命があるのです」
真魚「そ・そう」
木葉「いえいえいえ教える訳には行かないのです。なんと言っても『ごくひにんむ』ですから」
真魚「ま・まだ聞いていな   
木葉「それではさらばなのです、そろそろにゃんだばぁは旅に出る必要があるのです」
真魚「う・うん・・・気を付けて」
木葉・・・真魚さん・・・美魚さんだけでなく自分の身も大切にしてくださいね
真魚「え?」
木葉「それではっ!すーぱーにゃんだばぁ、ひかりばーじょん れでぃ・・・ごー!!!
余り時間もないので一瞬だけ顔を出し、言うべき事だけを言う

目的はただひとつ
香澄ちゃんを止める事
さっき香澄ちゃんの気配を感じた・・・人を殺す気配を・・・
もうやめさせないと・・・そんな事をしても不死の力は手に入らない
お兄さんに会うことも・・・残念だけど出来ない
もう一度止めてあげないと
今度は私一人だけででも
・・・例え・・・この命に代えてでも
・・・・・・香澄ちゃんを・・・殺す・・・ことになったとしても・・・・・・


【残り95人】







第3話「恐怖」

怖い 怖い 怖い 怖い
怖い 怖い 怖い 怖い
怖い 怖い 怖い 怖い
怖い 怖い 怖い 怖い 怖い
怖い 怖い 怖い 怖い 怖い
怖い 怖い 怖い 怖い 怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い
怖い怖い怖い怖い怖い怖い

あのリサさんが・・・あれだけ強かったリサさんが一瞬で・・・
逃げなきゃ
勝てるわけが無い
見つかったら即死

逃げなきゃ逃げなきゃ
逃げなきゃ逃げなきゃ

カサッ
??「クリス?大丈夫か?」
クリス「ッ!?」
いやだ!!死にたくない!!
夢中になって手に持った短刀を振り回す
??おわ!危ねぇ!何すんだクリス」
無我夢中で振るった短刀は、相手を傷つけることなく奪われてしまう

ダメだ・・・僕はもう死ぬ・・・

逃げなきゃ・・・確実に死ぬ

逃げなきゃ

逃げなきゃ

クリスうわぁぁぁぁぁぁ
??あ!おいクリス!?」



クリストファー・クロス(22番)は走り去ってしまった
俺は呆然としてその場に立ち尽くした・・・
・・・クリスどうしたんだ・・・
??「ん?」
血の匂い・・・幾度かの戦場でかいだ事のある匂い
??「だれか・・・殺られたのか・・・その現場を・・・・・・ちぃ!」

少女「お兄ちゃん?」
??「ッ!?、だれだ?
女の子の声に、上の空だった意識が一気に現実に引き戻される
俺を兄と呼ぶ声
だがクレアではない、声も全然違うし呼び方も違う
少女「また・・・あなたもジャマするのね」
一瞬目があうと、少女は敵意を込めた目線と、手に持ったナイフを俺に向ける
その少女を見て戦闘態勢に入る
手に持ったナイフと、少女の身体中を染める返り血
色からしてまだ新しい
おそらくこいつが・・・

そう感じた直後、眼前にナイフが迫る
それをしゃがんで避すとこちらの短剣を振るう
少女痛っ!
よし・・・右肩に傷を負わせた・・・コレでまともにナイフなど振れまい・・・

ブン

??「なっ!!」
・・・油断した・・・
いや、コレは油断ではあるまい
この傷ならコレくらい剣速が遅くなるはずだというのも経験で解るものだ
だが・・・この少女は想像を絶するスピードで攻撃してきた
まるで・・・痛みを感じないかのように
証拠に肩からはナイフを振るうたびに血が噴き出している
普通なら、もう何も持てない位の激痛が襲っているはずだった
コレでは避し続けるのにも限度がある・・・殺すしかないのか・・・
??くっ!?
一瞬のためらいの隙を突いてナイフが心臓を狙ってきた
??があぁっ!!
鮮血が飛ぶ
間一髪左腕でガードしたものの、もう左手は使えないぐらいの重症だ
??「ちぃ」
もう一度間をとる

どうする・・・この少女を殺すしかないのか・・・
このまま時間が経てばおそらく俺が殺される
俺は少女のように痛みを完全に我慢する事は出来ないからだ
・・・今なら・・・今、全力を出せばこの子を殺すことは出来る・・・
殺るしか・・・・・・ない!!
??はぁ!!
「待ってください」
決心し踏み込もうとした直後に突然第三者からの静止が入った
少女木葉ちゃん!!
さっきまで無表情で攻撃を繰り返してきた少女に初めて表情というものが宿る
木葉「・・・あの・・・どなたか存じませんがここは私に任せてください」
そこに現われた子はクリスなどよりも小さい子供であったが
その子から感じる雰囲気は自分よりも年上のようにも見える
??「・・・分った・・・」
自分も怪我を何とかする必要があるし、女の子を殺したくもない
もしかしたら・・・
この子なら、殺しをしていると思われるこの子をも説得できるかもしれない
??「気を付けてな」
それだけ言って立ち去った

・・・そういえばあの子クリスと声が似てたな・・・
一瞬そんなどうでもいいことが頭の中をよぎるが
左腕の痛みですぐに現実に戻される
とにかく洗わないとな・・・
トーヤさんとか見つけられるとありがたいんだが・・・


【残り95人】







第4話「狂気の向こうで」

??「木葉ちゃん!いっしょに行こうよ」
木葉「・・・どこへ?」
??「お兄ちゃんを探しに行くに決まってるじゃない。この島のどこかにいるんだって
   もう、さっさとスッキリしっかり発見してシュパッとビビュっといっきに脱出しましょう」
木葉「・・・誰がお兄さんがいるって言ったの?」
??「あの最初に出てきた人だよ、あの人見かけによらず親切だよねぇ」
木葉「香澄ちゃん・・・」
香澄「どうしたの木葉ちゃん?」
木葉「お兄ちゃんは・・・もう居ないの・・・」
香澄「そんな事ないよ、居るって言ってたもん」
木葉「居ないのよ、もう・・・どこにも、一度は気付いたはずでしょう?もう一度気付いて」
香澄「・・・そんな事ない・・・そんな訳ない・・・お兄ちゃんは今でもここにいる・・・このはちゃん」
木葉「香澄ちゃん?」
香澄「木葉ちゃんもテキだったのね」
木葉香澄ちゃん!気付いて!あなたのお兄さんはもう居ないのよ!!
香澄「邪魔者は・・・死んで
数メートルの間合いを一瞬で詰めナイフを振るう
・・・ダメだった・・・
・・・姉さん・・・後を頼むね・・・
??「あらは〜、何をしているのかしらぁ?」
香澄だれっ!?
突然声が聞こえた
香澄ちゃんはあと十数センチのところでナイフを止め、周りを見渡している
私も周囲を見渡すと木陰から女の人が現われた
??「弱い者いじめはよくないわよぉ」
香澄「・・・お前も私を邪魔するのね」
??「そうね〜、確かにそういうことになるわねぇ」
香澄「・・・死んで」
そういうと香澄ちゃんの姿が消えた
少なくとも私にはそう見えるほどのスピードで新たな邪魔者を排除しようとしていた
香澄ちゃんは女の人のすぐ前まで迫っている
私は思わず眼を閉じた
ガキィッ   ドサッ
金属同士がぶつかるような音の後、地面に何かが落ちる音
恐る恐る目をあけると地面に倒れているのは香澄ちゃんだった
女の人は手にフライパンを持ってはいたが、先程とは変わらずにその場に立っている
当然傷なども見えない
香澄「な・・・」
思わず香澄ちゃんが声を漏らす
??「あらは〜、もう終わりかしらぁ?」
香澄「あ・・・あんた何よ!?何で私の邪魔するのよ!!
??「う〜ん、あなたを邪魔したいんじゃなくって、あの子を助けたいのよねぇ」
香澄同じよ!!私とお兄ちゃんの邪魔をしないで!!
??「それはできないわねぇ、あなたにはここでしばらく眠ってもらうしかないのよぉ」
そういうと普通に町を歩くかのような調子で香澄ちゃんに近付いていく
香澄ちゃんの持っていたはずのナイフは既にない
先程切りかかった時に飛ばされたようだ

香澄「・・・くらえぇ」
香澄ちゃんの苦し紛れの攻撃を避すと自然な動作で何かを香澄ちゃんの口に放り込んだ
香澄「えっ!?」
思わずそれを飲んでしまった香澄は数秒後には眠りについていた
??「は〜い、おしまい♪」
木葉「あ・・・あの・・・」
今まで黙って事の成り行きを見ている事しか出来なかったが、やっと声が出た
木葉「あなたは・・・?」
和観「私は佐伯和観(28番)よぉ、あなたのお名前は?」
木葉「私は・・・一ノ瀬・・・木葉・・・です」
和観「木葉ちゃんね、あの子はどうしたら良い?」
香澄ちゃんを指差しながら聞いてくる
木葉「・・・・・・さっき飲ませたのは?」
和観「ただの睡眠薬よぉ、このフライパンの付属品だったのよ『このフライパンで料理をした物に入れて食べさせれば相手を眠らせて寝込みを襲えます』って注意書き付きだったわぁ」
木葉「そうですか・・・あの」
和観「ん?」
木葉「香澄ちゃんをあの木下に座らせてください」
和観「分ったわ、後は木葉ちゃんに任せても良いのかしら?」
木葉「はい、ありがとうございます」


和観「それじゃわたしは行くわね」
木葉「はい・・・和観さんもお気を付けて」
和観「私なら大丈夫よぉ、むしろあなたのほうが心配よぉ・・・任せても良いのね?」
最後の言葉だけ和観さんが急に真面目な顔になる
木葉「・・・はい・・・駄目な時は私が責任を持って・・・」
そう言って鞄に入っている武器に触れる
和観「・・・そうならないことを願っているわぁ、それじゃね、木葉ちゃん」
木葉「はい・・・」

もうしばらく香澄ちゃんと一緒に居られる
香澄ちゃんは眠っているけど
起きたら私の手で・・・殺す・・・かもしれないけど
もう少しだけ一緒に・・・

木の下で一緒に座って眠っていた


できることなら・・・正気に戻っていますように・・・


【残り95人】







第5話「荒治療」

やばい・・・
かなりの深手だ
とりあえず止血はしたが、放っておけば止血した先がえし壊死するかもしれない
事実左手の感覚はなくなりかけ、色も変わってきている
出血多量になるのは避けた・・・という程度か・・・

・・・俺もこのまま死ぬのか・・・
・・・あの子は上手く説得できたのだろうか・・・
・・・もしかしたら俺はあの子を見殺しにしてしまったのではないか・・・
・・・俺があの場で手を汚すべきだったのではないか・・・

いや、考えていてもしょうがない
とにかく適切な処理をする必要がある
・・・が、前線で戦闘する事もあるので応急処置はある程度知っているが
さすがにここまでの深手となるとどうしようもない
ましてや消毒もできないし、包帯などもない・・・

このまま歩いて運良くトーヤ先生に出会うという幸運を求めるか・・・
いや、確か全員が集まった場所で白衣を着た連中を数人見た・・・そいつらでもいい
・・・まぁディアーナだと全くダメだが・・・
だが・・・そいつらがこのゲームに乗っていたら・・・
いや、それは見つかったらの話だ
この島で他人と遭遇する確率はかなり低いみたいだった
何せ、出発してから最初に見かけたのがクリスだったのだ
俺の左腕が死ぬ前に他の人に出会い
そいつが医者で
さらにこのゲームに乗っていない確率なんて・・・

だが動かなければその確立はほぼ0になる
ならば動ける限り動こう
もしで会った相手が強い奴だったら・・・俺は死ぬだろうな・・・
とにかく・・・移動しよう・・・

少し歩くと川が見えてきた
「水・・・川か・・・この水で傷口を洗ったら・・・危険かな・・・」
バシャッ
いってぇぇぇぇぇぇっっっっ
突然かけられた水に傷口が悲鳴をあげた(実際に上げたのは俺だが)
いきなり何しやがるっ!
突然水かけてきた男「うっせェな、コレぐらいで痛がってンじゃねェよ」
この傷にいきなり水をかけられりゃ誰でも痛がるってーの!!っていうかいつの間にそこに居やがった!?
突然水かけてきた男「細けェこと気にすンじゃねェよ、女々しいぞ」
細かくねぇ!!誰でもそう思うだろうが!!
突然水かけてきた男「わぁったからこっち来い、その腕治療してやッからよ」
「あ?お前医者か?」
かなり怪しい医者?「細けぇこと気にすンなって言ッてンだろ、おめーがやるよかはうめェよ」
「・・・・・・」

不安だった・・・はっきり言って非常に不安ではあった
だが治療をしている際は基本的には手際がよく特に文句もなかった
ただ・・・
てめェ良い身体してンなぁ』とか言う時の目は寒気がするほど怪しかったような・・・

パンッ
いってぇぇぇぇっっっ
医者?「終わったぞ」
最後に傷口を叩くなっ!!
医者?「うっせェな、こンくらいでギャアギャア騒いでンじゃねェよ」
「ったくとんでもない医者だな、まぁ・・・だが助かった、礼を言う」
医者?「礼なんかいらねーよ、身体で払ってもらうかンな」
「な!?」
医者?「ジョーダンだよジョーダン、てめぇみてーな男はちょっと趣味じゃないンだよ」
「・・・・・・」
医者?「お?命の恩人に向かってンだその目は?」
「・・・いや、他人の趣味に口出しはしない主義なんだ・・・俺はもう行く」
医者?「行け行け、さすがにこのまま二人で居たら我慢できねェかンな」
「・・・・・・・・・」
医者?「早く行けや、童貞奪われたくなきゃな」
ダッ
無言で走り出した、すると後ろから声が聞こえて来る
医者?「また怪我したらここ来いや、大体この場所にいっかンよ」
「あぁ、分った」
医者?おい!てめェ、名前なんてンだ?」
アル「アルベルト・コーレイン(25番)だ」
浩暉「俺は谷川浩暉(62番)だ、一応憶えとけや」
アル「あぁ、それじゃな」

一応(適切に見える)処置をしてくれたし・・・感謝・・・かな?


【残り95人】







第6話「選択」

美魚「お姉ちゃん・・・ありがと・・・」
真魚「ん」
美魚「あの人、無事かなぁ」
真魚「たぶん」
美魚「えと・・・あの・・・」
真魚「美魚」
美魚「あ、何?お姉ちゃん」
真魚「少し寝た方がいい」
美魚「あ うん、そうだね・・・」
真魚「私が見張りしておくから」
美魚「お姉ちゃん・・・あの・・・」
真魚「どうしたの?」
美魚「おトイレ・・・どうしたらいいんだろう」
真魚「・・・・・・」

確かに盲点だった
・・・今まで美魚を探すのに必死で考えもしていなかったが・・・
こんな場所でお手洗いを探すのはかなり間抜けだろう
住宅地の方に行けば別かもしれないがここはかなり遠い位置だし
第一、建物なんて人と遭遇しそうで怖くて行けない

真魚・・・その辺で・・・かな・・・
美魚「う・・・やっぱりぃ」
真魚「・・・だったら移動しよう・・・水とか必要だし・・・
美魚「・・・う〜ん、我慢する」
真魚「ダメ・・・いつまでもこのままって訳にはいかないから・・・」
美魚「・・・はい・・・」
真魚「美魚、コレもって」
そう言って持っていたポケットピストルを渡す
美魚「え?お姉ちゃんは?」
真魚「美魚の武器にコレが入ってた」
そう言って真魚の手にはかなり大きな銃を見せる」
真魚「美魚じゃコレ使えないから」
美魚「確かにそうだけど・・・おねえちゃんでも大きすぎない?」
真魚「でも多分この装備が一番いいと思う、美魚も武器を持っていた方が安全」
美魚「ん・・・わかった」



美魚でも・・・外でなんて・・・
少し歩いたところでまた美魚がぼやく
真魚私も・・・恥かしいんだから
美魚「でも・・さ・・・どうして・・・今・・・こんなところで何で   
真魚美魚!
美魚「っ!?」
真魚「ダメ・・・その続きを言っちゃ・・・弱音を吐いたら・・・多分何も出来なくなっちゃう」
・・・何で・・・この後に続く言葉なんて決まってる・・・
・・・ナンデコンナコトニ・・・
真魚「私もいっしょに居るから・・・」
美魚「・・・うん、そうだね」
真魚「うん・・・え?」
美魚「どうしたのお姉ちゃん?」
真魚「美魚、逃げて」
美魚「え?」
真魚早く逃げて!!
ガサッ
美魚「な・なに?」
真魚「・・・あなた・・・何の用・・・?」

木陰から現われた男は、銃身が長い・・・狩猟用のようなライフルをこちらに向けていた
目は鋭く、こちらを撃つ気満々に見える
すぐに腰の銃を取り出し構える
真魚「早く!逃げて!!
「くくく・・・そうだな・・・逃げてもいいぜ」
男から意外な声がかかる・・・だが、
ただし・・・・・・逃げられるのは一人だけだ」
真魚「なっ?」
「どっちか一人だけは逃がしてやるよ・・・代わりにどっちか一人には死んでもらうがな」
美魚「そんな・・・」
真魚「美魚・・・あなたが逃げて」
美魚「お姉ちゃん?」
真魚「いいから」
美魚「う・・・」
真魚「大丈夫・・・私は負けないよ」
・・・言ってて情けない・・・足は震えて銃身も震えて全く男を狙えていない
美魚「でも・・・」
真魚はやく!!
美魚「わかった・・・ちゃんと・・・戻ってきてね」

後ろで美魚がかけていく音が聞こえる
その間も何とか男に銃身を合わせようと必死に震えをこらえようとするが
身体中の震えが一向に収まらない
「安心しろよ、もうしばらく待っててやるからな」
真魚「何がしたいの・・・あなたは・・・」
「ただハンティング狩りを楽しんでいるだけさ・・・・・・さて、もういいだろ」
真魚「絶対負けないって自信があるようね」
「あぁ・・・・・・おい、銃を撃つ気があるならセイフティをはずせよ」
真魚「!?」

舐めてる・・・完全にこっちを見下してる
そんなのもう数十回も確認したわよ
こんな奴・・・こんな人を人とも思わないような奴を生かして置いちゃ・・・いけないかも・・・

ドンッ
ぐぁっ・・・んだ?・・・急に震えなくなりやがって」
男の言葉で銃を放ったのはこっちのほうだった
完全に命中とまではいかなかったけど、わき腹辺りに当たったらしい
真魚「セイフティが・・・どうしたの?」
「へっ、いいだろ、一旦引いてやろう」
そういうとスッとその場を去る
真魚「あ!?」
後を追いたかったが足が動かない

・・・怖かった・・・
・・・でも・・・何とかなった・・・美魚は無事かな・・・
真魚ッ!?
その時目に入った光景
少し遠く離れた場所でさっきの男が銃を構えている
そういえばあれは狩猟用の銃・・・遠距離からでも十分当たる・・・
というか最初からそれをしなかったのが不思議なぐらいだ
・・・やっぱり・・・私・・・ダメだった・・・
・・・逃げて・・・美魚・・・
パンッ
・・・遠くの銃声だからか・・・
・・・それとも既に頭にでも銃弾が当たったのか・・・
妙に小さい銃声を聞きながら視界が狭まる

「おい君、大丈夫か?」
真魚「え・・・私・・・生きてる?さっきの奴は?」
「俺が殺した・・・君を狙っていたからな」
真魚「あ・・・ありがと・・・」
見ると手には小さな銃を持っている
銃声が妙に小さかったのはそのせいなのかもしれない
真魚あ!そうだ、美魚」
「ん?だれだ?」
真魚「私の妹、さっき逃がしたの」
「わかった、俺も一緒に探そう」
真魚「いいの?」
「あぁ、構わない、歩けるか?」
真魚「うん・・・平気」

美魚・・・どこ・・・何とかなったよ
もうだめかと思ったけど
この男の人が助けてくれた
もう大丈夫だから

「これは・・・血の匂い・・・」
真魚「え?」
男の小さく呟いた
「こっちから・・・か?」
さっきまで私の後ろについてきた人が前を先導するように歩き始めた
・・・血?・・・
・・・まさか・・・大丈夫だよね?・・・私だって大丈夫だったんだから・・・
・・・あれ?人が・・・倒れている・・・赤い・・・
見るな!!
男の人が私の目をその手で覆ってくる
・・・でも・・・見えてしまった・・・赤い・・・赤く染まった・・・美魚を・・・
真魚いやあああああぁぁぁぁぁぁぁ
「落ち着け」
真魚美魚〜〜、美魚おおおおおぉぉぉぉぉ
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・行かなきゃ
銃をしっかり握り締めて
待て!!
男の人が腕を掴んでくる
真魚放して!行かなきゃ!美魚をこんなにした奴に・・・
「今は落ち着け!!」
真魚いや!何で美魚がこんな目にあわなきゃいけないのよ!!
「だが、君をそのまま行かせる訳には行かない」
真魚なんでよっ?私は美魚の敵を」
「だが、今の君は人を見かければすぐに引き金を引く」
真魚「当然よ、この辺に居るのはきっと美魚を殺した奴よ」
「だめだ!その可能性は高いが、そうではないかも知れない。もし違かったら、君のような思いをする者を増やす事になる」
真魚「う・・・」
「落ち着け、俺が傷口を見る、どんな凶器がおおよそ分るはずだ」
真魚「・・・・・・はい・・・・・・」
「よし、いい娘だ」
頭に手を乗っけて
・・・まるで子供をあやす様に・・・
・・・でも不思議と嫌な気はしない・・・

「君はそこに少しいろ、俺が見てくる」
真魚「あ」
「ん?どうした?」
真魚「あの・・・名前・・・」
はとり「・・・俺は草摩はとり(50)だ、君は?」
真魚「私は二見真魚です」
はとり「二見君 だね?」
真魚「はい」
はとり「よろしく」


10番 ランディ・ウェストウッド 死亡
79番 二見美魚 死亡
【残り93人】








第7話「占う道」

ローラ「あれ・・・」
目が覚める
いつの間に眠っていたんだろう
周りにあるものは木木木・・・
何でこんな所に自分はいるんだろう
今日だっていつもどおりに起きて町で遊ぶ予定だったのに
山にでも来ちゃったのかな
最近物騒だって言われてるから久々だけど・・・

少女「ん?」
何でこんなものが・・・
明らかに自分のものではない大きなバッグが目に入る
こんな無骨なの趣味じゃない
でも近くにあるんだから開けても大丈夫だよね?
うん
もし他の人のでも何か事件の匂いがするし

ジーーーーー
ファスナーを開けて中のものを引っ張り出す
中には・・・
少女「な・・・なにこれ・・・」
少女の手には似つかわしくない大き目の斧

一瞬思考が停止する

・・・き、キコリさんのかな・・・

そう言い訳しながらもだんだんに思い出してしまう

思い出さなくていい事だと言い聞かせても

奥深くにしまいこんだはずの記憶は勝手に浮上してくる

少女「い・・いや・・・思い出さなくても・・・いい」
誰にともなくつぶやくがすでに遅い
脳裏に浮かぶのは情け容赦もなく頭を打ち抜かれた・・・
少女うぅ・・・・
必死に吐き気を押しとどめる
きっと吐いても楽になんてなれない

と、とにかく、今は身を隠さないと
自分は殺しい合いなんてまっぴらごめんだ
でも・・・死ぬのはそれ以上に怖い

恐怖で考えることを放棄しそうな頭を必死に動かしどうするかを考える
・・・1人では何もできない
・・・だったらほかの人に・・・?
それも怖い
今は誰とも会いたくない
もし知っている人だとしたら?
・・・シーラちゃんとかだったら・・・
いや、どの人だってきっと・・・殺し合いなんて望んでいるはずがない

今まで寝てしまっていたこの女の子は知らなかった
幾度かの銃声爆音がこの辺りに鳴り響いていた事を
すでにこの場所で殺し合いの火蓋は切って落とされていることに
そして・・・すでに10人に近い人の命が尽きていることに
さらに・・・自分に忍び寄る危険・・・
それら全てに気が付かずにいた

自分の気持ちを決め、斧をそのままバッグにしまう
二度とそれを使う状況にならないようにと願いながら

少女「と・とにかく・・・少しずつ移動してみないと」
震える自分に言い聞かせるようにつぶやき立ち上がる



回りに人の気配はしない
きっと近くに人はいないのだろう
もしいれば・・・もっと早く自分は死んでいっただろう
それがないってことはきっと近くに誰もいない
そう信じなければたった数メートルだって歩けはしない
いまだって恐怖でその場にうずくまってしまいたいぐらいだ

少女「ッ!?」
そう思った矢先に人の影を見た
遠く・・・少なくとも声なんて聞こえないくらい遠くだが・・・
その金髪は目立つ・・・

・・・ルー・シモンズ・・・

かっこいいと思い何度か話をしたこともある
そこまで親しい間柄という訳ではないが、親しくないかと言えばそうでもない
何せ小さな町だ、ほとんど全ての住人が親しい
その辺から言えばけっこう親しいほうだろう
よくサクラ亭とかで会うし
正直怖いという気持ちは消しきれない
でも・・・きっとだれも殺しあう気なんてないはず
そう言い聞かせて歩き始めたのは自分だ
人を見つけて、近づくのが怖いからとそれを否定してはこれから動けなくなる
・・・こわい
どうしようもなく怖い
でも・・・ルーさんなら・・・頭もよく冷静だ
彼なら・・・こんな状況でも頼れる存在となるのではないか・・・

少女は意を決して彼に近づく
それが・・・吉と出るのか凶と出るのか・・・まだ・・・ワカラナイ

少女ル・ルーさん
あまり驚かせることの無いよう少し距離を離して声をかける
ルー「!?・・・ローラか・・・」
ルーは一瞬驚いて振り返った
そして、ローラの姿を認めるとすぐに冷静なルーに戻る
ルー「無事だったのか・・・」
ローラの安否を気遣ってくれる
・・・よかった・・・うん・・・きっとこうなってくれるって分かってた
ローラ「うん、ルーさんこそ」
ルー「そうだな、俺は今のところ誰とも会っていない、ローラがはじめてだ」
ローラ「そっか・・・?、何してるの?」
安心したところでルーの手元にあるものが気になった
ルー「ん?あぁ、占いだ」
ローラ「こんな所なのに?」
ルー「こんな所だからこそ、だ。むやみやたらに危険に突っ込むわけにはいかんだろう?」
ローラ「それは・・・そうかも・・・」
ルー「俺はこの生き方を変える気はない」
ローラ「じゃルーさんは占いでこれからの行動を決めるのね?」
ルー「そういうことだ」
ローラ「じゃあさ、私も一緒に行っていいかな?」
ルー「あぁ、べつにかまわん」
ローラ「?私の事を占ってから決める訳じゃないの?」
ルー「いや、すでに占いの結果さ、こっちに来たのは仲間に会うって分かってたからだ
   そうでもなければあんな無防備な状態で待っていたりはしない」
ローラ「そっか、そうだよね」
ルー「だからローラと行くことには変わりはないさ、その為にいたんだから」
いつものルーと思えないほどのやさしい声
いや、これが彼の地なのだろう
いつもはひねくれているように見えるけど・・・
ルー「さて、この先のことを占うか」
ローラ「あ、私も見てていい?」
ルー「邪魔はするなよ、未来を見るには集中する必要がある」
ローラ「わかってるってぇ」

その場に座り込んだルーはカードを並べ始める


数分後


ローラ「あ、終わった?」
そろそろ退屈に思い始めたところでルーは立ち上がった
ルーはその場に立ち尽くす
ローラ「?」
不思議に思ったローラはルーの手元を覗き込む
ローラ「D E A T   グッ
首筋を襲う灼熱感
何が起こったのか分からずその場に倒れこむ




ルー・シモンズは焦っていた
何度引いても同じカードが出てくる
必死に否定しもう一度カードを並べ直す
・・・
同じカード
絶対にこのカードは出ないように切ったはずだ・・・なのに・・・
・・・カード自体には細工など無い事も確認した
・・・
引く
・・・
おなじカード
・・・・・・
おなじかーど

集中力が甘いのか
ローラが見ているから集中できないとでも言うのか
そんなはずは無い
目の前のローラは特に邪魔をするそぶりは見せないし、実際邪魔ではない
なら何故このカードしか出ないのだ
・・・
考えてみれば簡単な事だった
このカードが正しいから
今までの平穏な生活からは考えられない未来だが
この場所でなら別段不思議な事など無い
そう
DEATH13のカードと
それを引く時の不吉な感覚
ただDEATH13のカードを引く事なら今までも当然あった
不吉な事や危険な事にはこのカードが引かれることも少なくない
だがそのときに見える未来は今見える未来とは比べられるような物では無い
だが
コレがこの場所で、この俺がとる行動として最善なのだろう
そうと決めたら行動は早い

自分の横に並びカードを覗き込むローラの喉に
自然に手に持ったカードを当てて
一気に引き裂いた
元々このタロットカードはルーの持ち物ではない『武器』である
カードの淵には刃がついており
使用には付属のグローブをはめなくては自身を傷つける
ローラはあっけなくその場に倒れる
ルーの今まで見たことのないような綺麗な赤で周りを染めながら



ローラ「な・・・なん・・・で・・・」
ルー「何で?理解不能な質問だな、占いで行動を決めると言ったろう?」
ローラ「ぁ・・・ぅ・・・」
喉を深く傷つけられてはどうする事も出来ない
ローラが元の幽霊ならばこんな攻撃も意味が無かっただろう
数百年ぶりに体をもつことの出来た幽霊は
数ヶ月の時をすごした後にその命を散らした



ルーはローラの死にゆく様を見下ろす
その姿は看取っている様でもあり、ただ観察している風でもあった
ローラがまったく動かなくなった後
ルーはローラの荷物からハンドアックスと食料・水分を自分のバッグに移す
そのバッグを背負いその場を動き始めた
周りのものを殺すために

彼の行動基準は占いのみ
彼の占いとは、『カードに占われる』のではない
『自らの力で未来に合ったカードを引き寄せる』のである
占いが決めた行動は必ず吉と出ると信じ、実際そうであった
故に
彼の狂気を止める事も占いでしか有り得ない
或いは
DEATH13が逆位置で出れば
彼の狂気は止まるかも知れない
だがそうなる事はもう無いだろう
DEATH13のカードはまるで手向けのようにローラの胸元に置いてあった
それは本当に手向けなのか
それとも狂気から戻らないようにする為の決別なのか
それは誰にもわからない
ルー自身すら何故そのカードを置いたのか解らない
むしろ意識してそのカードをそこに置いたわけではないのだ
胸元に置かれたカードは血に濡れ
赤く染まり
笑っているかのようにも見えた



69番 ローラ・ニューフィールド 死亡
【残り92人】



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