マリカ
「Sクラスかぁ・・・どんなんだろうね?」
「さぁ・・・あんな男が混じってる位だから・・・」
「またその人の悪口?聞く限り別に何してきたわけでもないんじゃない?」
「ん〜・・・何となく癇に障るのよ、生理的に嫌なの」
「まぁそれじゃしょうがないんだけど・・・(僕にそれを話されても・・・)」
エミュとミラは並んで廊下を歩いていた
夕食も終わりSクラス顔合わせの為に教官室に向かっているところだ
ミラが不平を言っているのは昼間に会ったフラウドについて
エミュは夕食時からそればっかりを聞かされていていた
コンコン
「失礼します」
ノックをしてから教官室の中に入る
「あぁ 来たな、そこに座って待っててくれ」
教官室の中にはゼファーしかいない
他の3人はまだのようだ
二人は言われた通りに中に入り 待つ
・・・10数分後・・・
教官室には未だに3人しかいない
エミュとミラとゼファーのみ
ゼファーはずっと事務仕事をしていて話すらしない
2人は緊張でずっと黙ったままだった
ピーピーピーピーピーピーピー
「えっ!?」「何!?」
ゼファーは慌てた様子も無く受話器をとる
「どうした?」
・・・
「何?結界は?」
・・・・・・・・・・・
「そうか・・・解った、すぐに俺が いや」
ゼファーはチラッと二人を見る
「周辺の避難は?」
・・・
「そうか、なら良かろう」
・・
「いや、すぐに処理する。念のためにもう1つ使っておけ」
ガチャ ↑資料2
「どうしたんですか?」
ゼファーが受話器を置くなりミラが訪ねた
「悪霊の巣食っている建物の結界が破れたそうだ」
「えぇ?」「どうして?」
「さぁな、予定よりも1週間早いが・・・今は遠巻きに結界を張っているが数日ももつまい」
「じゃあ早くしないと」
「そこで、お前達が行って悪霊を排除してこい」
「え?」
「元々ココはお前達5人用にとって置いた場所なんだが・・・予定より早いが良かろう」
「他の3人は?」
「後から向かわせる、出来そうなら二人で始めてもいいぞ、結界付近なら安全だしな」
「解りました」
「場所は・・・・・・」
場所を聞くとミラがまず部屋を飛び出しエミュがそれを追う
それを見届けた後ゼファーがため息をついた
「・・・1週間も速く結界が、か・・・何かあるな・・・」
そう呟きつつ、あるダイヤルを回し始めた
「ここね」「そうみたいだね」
ミラの確認に地図を持ったエミュが答える
「それじゃ始めましょうか」
「うん・・・・って待たないの?」
さも当然のように言うミラに思わず同調してしまった
「当たり前じゃない、『出来るならやっていい』ってことは『やって見せろ』って事でしょ?」
「そ・そうなのかなぁ・・・」
「ほら、行くわよ」
「うぅ・・・」
しぶしぶミラに続いて結界をくぐる
それを察知した悪霊たちがミラたちに襲い掛かる
「う〜〜久々の実戦ね、エミュ!行くわよ!!」
「う・うん」
久々の実戦とはいえ幼い頃からの積み重ねはそう消えてはいない
エミュは敵攻撃をことごとく拒み
ミラがそれらを的確に叩き落していく
だが俺も最初だけだった、そのうちに今までに無い方法で攻撃してきた
建物を崩しその破片によるつぶて攻撃
ミラはそれらの軌道をずらす事で難なく避すがエミュはそうは行かない
元々結界魔法というものは膨大な魔力の放出ゆえに行動をも制限する
エミュは結界に対する天才的なセンスを持っているとはいえ
結界を張っている時の動きは常人のそれと同じ程度
さらに結界とは魔法や悪霊すなわち魔を弾くものでただの物体ははじけない
ミラの魔力を込めた拳は受け止められるが
魔力のこもらない拳は受け止められないということだ
だがそのつぶてとは別に攻撃してくる悪霊がいる以上 結界を解除する訳には行かない
結局ミラが二人分のつぶてを止める事になり次第に防戦一方となっていく
「あっ!?」
エミュが声を漏らす
大きなつぶてが迫ってきていたがエミュには避すことの出来ないスピード
慌ててミラが横から蹴り飛ばして軌道をそらす
だが無理な体勢でそれをしたため
自分のほうに飛んでくるつぶてに反応は出来ても身体が追いつかない
「くっ」
きしむ身体を強引に動かそうとする
「えっ?」
だがミラの身体は思った以上 いや、いつも以上に動いて見せた
難なくつぶてを払い落とす
「大丈夫か?」
「あんた!?」
2人の後ろにはいつのまにか現われたフラウドが立っていた
「俺達3人が着たからにはもうOKだ」
「3人って・・・私には2人に見えるんだけど」
「マリカ、またいない」
「マジかよぉ?また迷ってんのかぁ?」
「あ!あぶない」
オーバーに頭を抱えるフラウドに迫るつぶてをアイラが槍の柄で叩き落した
「お・サンキュー、まぁ来ないもんはしょうがない、俺達だけでやりますか」
フラウドの補助魔法とエミュの結界魔法を受けたミラとアイラが敵を叩いていく
飛んでくるつぶてはミラとアイラは自分の分を落とし、フラウドが二人分カバーする
形勢は5分へと持ち直した
・・・だが決定打が無い・・・
悪霊は一体どれほどいるのか・・・見当もつかない
最初の勢いを崩さずに攻めて来る悪霊たち
何とか五分五分へと戻したものの次第に疲労してくる4人
「くっそぉぉ、やっぱマリカにリード紐をつけておくべきだったかぁ」
フラウドが弱音(?)を吐く
「マリカ、犬じゃない」
「そうだけどさぁ、あの方向音痴は並じゃないぜ」
「・・・」
否定しないところを見るとやばそうである
「あんた達!!無駄話してる暇はないわよ!!」
ミラが戦いながら話している二人に叫ぶ
「わーってる・・・だが、このままではまずい 少しずつ結界のほうへ戻るぞ」
「えぇ!?何でよ?」
「この戦力差ではまだ負けないが・・・勝てもしない、いったん引く」
「嫌よ、引きたくない」
「バカ!!意地のために命を捨てても意味が無い、今は俺に従え!」
「う・・・」
フラウドの言葉は確かに正論だ
敵の力が未知数で、引く道が普通に残されているのならば引くべきだろう
・・・・・・・・・
「・・・・・わ 」
「お待たせしましたぁ」
ミラの声を遮って突然現われた女の声が響く
「マリカ!?一人で来れたのか?・・・奇跡だ・・・」
フラウドが最後の呟いた一言がエミュにはとても気になったが、ここで聞くのをやめた
「手伝って」
「わっかりましたぁ、はぁぁぁぁぁ」
マリカと呼ばれた子が手に魔力を集中する
ミラにもエミュにも放出する事が出来ないほどの魔力
それほどの魔力を集めてもなおそれ以上の魔力を溜めている
悪霊たちはその子の危険さを察知しターゲットを切り替える
だがアイラとミラがそれを阻み敵を近づけさせない
そしてマリカが手に溜めた魔力を研ぎ澄ませる
「いっきまぁぁぁすぅぅ」
その声と同時にミラとアイラが左右に散る
「いっけぇぇぇぇぇ」
マリカの声と同時に放たれる魔力の渦に悪霊たちは次々と飲み込まれてゆく
そうして残った悪霊はほんの少しになっていた
それらをミラとアイラが排除するとその場からは悪霊が感じられなくなっていた
「マリカ、よく一人で来れたな」
「本当、奇跡って存在するのね」
「はわぁぁ、照れますぅ」
傍から聞くととっても失礼な発言で照れている少女・・・
この3人がゼファー先生の言っていた新しい3人なのだろう
そして新しい仲間
「さて、改めて自己紹介しようか、俺はフラウド・ボルティ
主に回復魔法と補助魔法を担当する・・・で、こいつが」
「アイラ・デュセル」
「この子は主に槍での戦闘と障害魔法が得意だ」
「よろしく」
あまり喋らないマリカをフラウドが補足する
「わたしわぁ 」
「こいつはマリカ・アトレーだ、攻撃魔法に関してはさっき見ての通りだ」
マリカの間延びした自己紹介を遮ってフラウドが説明してしまう
「よろしくお願いしますぅ」
それでもそれを気にせず挨拶してきた
そんな調子で自己紹介も済み、ここにいてもしょうがないので
とりあえずアカデミーに戻る事になった
「んじゃ、もどりますかね」
「ちょっとなんであんたが指揮してるのよ」
既に場を仕切り始めたフラウドにミラが抗議する
「俺が一番年長だからねぇ」
「そんなの関係ないじゃないの」
「でもミラちゃんのように熱い子はリーダーには向かないんじゃない?」
「う・・・でもあんたみたいに軟派な奴にも向かないわよ!!」
「軟派は関係ないんじゃない?」
「いーや、大有りよ」
「ならどう決めたいのさ?」
「こういうのは先生が決めるはずでしょう?」
「ちょ・ちょっと待ってよ、親父が決めたら俺にするわけないじゃん」
「ゼファー先生は公平そうだから私情は挟まないんじゃない?」
「親父は私情挟みまくりだっての、前も俺が食べたおやつを根に持って素振り千回だぞ」
「・・・それは単なる逆恨みじゃ・・・」
「いーや、それだけじゃないぞ・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
二人の言い争いは終わりそうも無く続いていた
それを近くで眺めながら3人は黙っていた
マリカは楽しそうに言い合いをしている2人を眺め
アイラは何を思っているのかわからない顔でやはり2人を眺めている
エミュは何か話そうかと思いつつも、結局切り出せず2人を眺めているしかなかった
そうしてずっと気になっていたことを考え出した
先ほどの戦闘で発見された自分の問題点
エミュが思考しているうちに二人の口喧嘩はエスカレートしていた
その大声も聞こえていないかのようにエミュは考え事に没頭していた
「っ!?」
何かを感じてエミュが顔を上げる
他の4人も同様に何かに気付いたようだ
何かはわからないが違和感のような物を感じる
「・・・な・何・・・」
「解らん・・・解らないが、やばそうだ」
ミラが小さく呟きフラウドが答える
だがそうしていても解決策は何も無い
むしろ何が起こっているかすら解らないのだ
フラウドが通信機を取り出しコールボタンを押した
ガァンッ
だがその直後その通信機は粉々に砕け散った
「ちぃ 狙撃か!?」
5人は建物の陰に隠れる
どこかに狙撃手がいる
だがどこかは解らない、それに相手はこっちを脅えさせて楽しんでいる
殺そうと思えばさっきの一撃で殺す事だってできたはずなのだ
いつまでも建物の影にいてもしょうがない
もしかしたら狙撃手が場所を変えているかもしれない
そうでなくてもココにいても何の解決にもならない
だがどうすれば良いのか
誰も何も言えずに無為に時間が過ぎていく
しばらく時間が経ったときミラが遠くを見ながら声を上げた
「あそこ!!」
ミラが遠くの建物を指差す
アイラは見えたのか反応したが、他の3人にはそれがまったく見えない
その直後建物の屋上で何かの光が見えた
「危ねぇ!伏せろ!!」
突然の横からの声に反応して5人が地面に伏せる
そして5人の立っていた場所の後ろの建物に銃弾が当たった
「ルシード先生!?」
5人を救ったのはルシードだった
すぐさまルシードは立って剣を抜く
また建物の上で光りが見えた
キィン
その銃弾はルシードの顔の前で剣にあたり弾き飛ばされる
『ほぅ、お見事』
どこからか何かの機械を通したような声が響く
『あなたへ攻撃すると読んでいたようですね』
「当たりめーだろ、一番邪魔な俺を攻撃する事はわかってんだよ」
『くっくっく・・・面白くなってきた・・・では、次は後ろの男の大きいほうを狙いましょうか』
「・・・なにがしたい」
『さぁ、私の宣言を信じるか信じないかはあなた次第ですよ』
そうして建物の上がまた光る
キィン
『どうです?ヒヤヒヤするでしょう?この距離なら銃口から狙いを予測する事は不可能
もしかしたら宣言は嘘で、あなた自身を狙うのかもしれないのですからね』
「・・・お前は何者だ」
『意思を継ぐ者ですよ』
「マックスを襲った奴か?」
『そうですねぇ、そんな事もあったかもしれませんね』
「お父さん!?」
「ミラ・・・後で話してやる、今は、黙っててくれ」
マックスの名に反応したミラをルシードが止める
ルシードにはいつもの余裕が無い
その迫力に押されミラは黙る
『さて、次は今喋った女の子を狙いますかね』
そう言い終わると同時にまた光が見えルシードが剣で止める
『自分は死んでもいい覚悟ですか?私の言葉を鵜呑みにしていると
次はあなたが死ぬかもしれませんよ?』
・・・
『さて、次は・・・女3人の誰かを狙います』
「くっ」
『さぁ、私は撃つ人を心に決めました、今のうちに誰を守るかを考えてみてください
まぁ逃げようとすればそいつを問答無用で打ちますけどね、頭以外を』
「・・・」
ルシードが動かないようにと伝えてくる
確かに今まで正確に額を狙っているから銃弾をとめられているのだ
どこを狙うか解らなければターゲットがわかっても防ぎようが無い
『さて、それじゃ行きますよ』
今までと同様に建物の上が光る
・・・
だが銃弾を弾く音が聞こえない
「え!?」
ミラが思わず声を上げ周りを見渡す
フラウド、アイラ、マリカ、ルシード・・・普通に立っている
その時エミュがバランスを失い膝をついた
「エミュ!!」
ミラが慌てて駆け寄る
だがエミュは膝は付いたがその状態で倒れる訳ではなかった
「出来た・・・」『バ・・・バカな』
エミュの声と敵の声が重なる
『ただの物質すら止めたのか・・・これほどの結界の使い手・・・』
先ほど放たれた弾丸はルシードの眼前20pほどのところで停止している
『だが・・・それほどの疲労、続けては使えまい』
そう言ってスピーカーの向こうでライフルを構える音が聞こえる
確かにエミュは疲労している
先ほど戦闘から間も無いのだし、新しい魔法を開発した時はいつもこんな状態だった
『もう標的は教えん、くら があっ!!』
スピーカーの向こうで何かが殴られる音と敵の悲鳴が聞こえる
『よし・・・って、え!?』
「バーシアか?どうした?」
ルシードがスピーカーの向こう側に呼びかける
最初からバーシアは敵本体を叩く手筈になっていたようだ
『え〜っと・・・これが通信機か、聞こえる?』
少しずつ鮮明になっていく声、おそらく通信機本体を見つけたのだろう
「あぁ、そっちは何か問題あったのか?」
『何があったって・・・私にも良くわからないけど、こいつ砂になっちゃった』
「そうか、確かマックスのほうに現われたのも同じらしいな、操り人形だったんだろう」
『そっか、それじゃコレ持っていってもしょうがないか』
「一応砂をゼファーに見せてみろ、何かあるかもな」
『りょーかい、そっちもお疲れ様』
「いや、エミュのおかげさ、それじゃまたアカデミーで」
『ん』
「さて、今回はお疲れ、いろいろ聞きたいことはあるだろうが
詳しい説明はゼファーに聞いてくれ、とりあえず・・・アカデミーまで急いで戻るぞ」
そう言ってルシードは追求を避けるように突然駆け出した
5人も慌ててその後を追う
この日、既に物語が動き出している事を知ったのだ