第09章「ウィリアム・テル?」



ビュッ・・・・ビュッ・・・・
矢の射られる音が裏庭に響いていた

弓矢を用いるには事務所内は狭すぎるので、裏庭に的を置き訓練を行なっていた
すでに何本を矢を射っているはずだが的には一本も矢が刺さっていない
別に的を外している訳では無い、的に当たる前矢が消えているのだ

最初から的に当たるタイミングで矢を消そうと思えば消す事は可能
これは的に当てる為の訓練ではなく矢を迅速に作り出しそれを射る訓練だ

ビュッ・・・今射た矢が消えるか消えないかの内にすでに次の矢を射る
その訓練にはもう一つの目的があった、それは・・・

よぉ〜マックス〜
突然のビセットの声が響く、がそれに動じずに番えた矢を射る
矢が的の寸前で消えたのを見届けた後ビセットのほうを振り向く
やぁ、ビセット君 どうした?
イヤー用は無いんだけどさ――」ゴンッ
ビセットが頭をさすりながら後ろを振り向く
ってーな何すんだよルシードォ
おめーはバカか、矢を番えている時に声かけんのアブネーぞ
不満そうにルシードを睨むビセットにフローネが付足す
そうよビセット君、弓道中に起こる事故ってかなり危ないのよ
うーん、フローネが言うならそうかな
おいビセットそりゃ・
ルシードの声を遮ってビセットが謝る
ごめんなマックス
いや、いいんですよ弓道ならそうでしょうが実践となるとそうはいきませんからね
まぁ、確かにな
それにココで練習していると突然大きな音が聞こえたりするんですよ
え?どんな?
ガッシャーーーーン
はわわわ〜〜〜すいませんです〜〜〜
なるほど・・・・ちょっと行って来る
センパイあんまり怒らないでくださいね
へいへい
ルシードが微妙な返事を残して事務所に戻っていった


ルシードが見えなくなるとビセットがマックスに訪ねた
そーだマックスあれ出来る?リンゴを頭の上において射抜くってやつ
えぇできますよ
えぇ!!ほんと!?見せて!見せて!
興奮するビセットをなだめるようにフローネが聞く
え?でも危なくありませんか
へーきへーき、マックスだってこんなに自信ありげなんだしさ
それじゃあんたの頭にリンゴを乗せなさい
いつのまにかバーシアがビセットの頭にリンゴをのせていた
バ・バ・バ・バーシア、い・いつの間に
いやーあたしも一度見たかったのよねぇ、じゃ頑張って〜
ほ・ほんきかよ〜
ビセットが救いを求めるようにフローネを見るがすでにバーシアが耳打ちしていた
そしてフローネはビセットを見るとトドメを刺した
頑張って、ビセット君
フローネまでそんなこと言う…
ほれ、ココで答えなきゃ男じゃないよ、行ってきな
へいへい、やりゃいいんでしょ、やりゃ


ビセットが頭にリンゴをのせ的の前に立った
深呼吸をした後マックスがゆっくりと矢を創り つが番え 構える


ビュッ


弓から矢が放たれた

リンゴにも、もちろんビセットにも矢は刺さっていなかった
ビセットが恐る恐る目を上げ周りを見渡すと
は・外れた?
と呟いた
マックスは少し微笑みながら
冗談ですよ、魔力の矢(マジックアロー)でリンゴを射ると飛び散って汚れますから
ビセットはへなへなと腰を落とした
な〜んだ最初からやる気は無かったのかよ、みんな驚かさ・
こんな事もあろうかと本物の矢を用意しておいたわ
ビセットがいい終わる前にバーシアが矢を取りだしマックスに渡す
こ・こんなことって、どんなことだよ〜
ほら、つべこべ言わずにシャンと立ちなさい、男でしょ
うぅ〜〜〜


再び的の前にリンゴをのせて立つ
が、今度は体が震え、完全に目をつぶっている


ビュッ


ビセットは音にビックリしてリンゴを落としてしまった
が矢はマックスの足元に置いてある
射るふりをしただけで、矢を番えてすらもいなかったのだ

と、まぁ相当訓練した物同士でないとこれって出来ないんですよね
的の不安がこちらにも伝染しますしね

な・なんだよ〜二人とも意地悪いよ〜
ほ〜れ、ビセットそんな所にうずくまってないでリンゴを的の上にのせな
バーシアが悪びれもせずにビセットに言う
何だよ最初からそうやりゃよかったんじゃん
それじゃー面白くないでしょ、アタシが
へーへー、どーせ俺はおもちゃなんでしょ
あーら、よく解ってるじゃないの
バ・バーシアさん少し言いすぎなのでは?
あんまり甘やかしちゃダメよフローネ、付け上がるから


それじゃいきますね
ビセットが的の上にリンゴをのせるとマックスが矢を番え構えた


ビュッ

矢が的のど真ん中に刺さっている

って、的のど真ん中じゃん!!リンゴは的の上だよ!!俺あそこにいたら死んでるし!!
ビセットが大声でうろたえているのを見てバーシアが笑い出した
あはは、おっけーおっけー久々に笑えたわ
バ・バーシア これもかよぉ
情けない声出すんじゃないの、最後はちゃんとやってもらうから
そう言ってバーシアがもう1本矢を取り出した

ビュッ

今度こそ矢は正確にリンゴのど真ん中を捉えていた

おーたいしたもんだね、ちょうど真ん中に刺さってるじゃん
そういえば的に当てた矢もちょうど真ん中ですしね
バーシアとフローネがマックスを褒めているが
ビセットは怒りながらマックスに言った
マックス〜、お前最初からバーシアとグルだったのか?
あんた今頃気づいたの?
バーシアがビセットの頭をはたいた
えぇ、ビセット君なら必ずこれをやれって言い出すだろうって、三日前に
3日も前からこれ始まってたのかよ
そゆこと、だいたい昨日リンゴを射抜く話をアンタにして焚付けたのはアタシだし

でも2本も続けてちょうど真ん中に当てるなんてすごいですね
ビセットをなだめ終わった後フローネがほめた
いえ、これは僕の技術ではないんです
そういってもう1本矢を番える

ビュッ

矢は的のど真ん中に吸い込まれていき

バキッ

さきほど刺さっていた矢にあたり矢は両方とも折れてしまった
「す、すご」
3人が声を失っている
何も言わずに矢をもう一度射る

バキィ

またも的のど真ん中にあたり最初に刺さっていた矢は木の棒の部分が残っていない

マックスが後ろを振り向いて話し始める
弓道っていうのは的に当たるか当たらないか、それだけで競われます
それだけあてる事自体が難しい競技なんです、それで動く相手を狙うのは無茶です
しかし実践ではそうもいかないので魔力でガイドラインを引くんです
矢と標的を魔力の紐で結び、そこにそって矢を飛ばす
標的の多少の動きや照準のずれは修正してくれます

ってことは、さっきのビセット当たる訳無いってことじゃない
少し残念そうにバーシアが言う
いや、バーシアそんなにつまんなそうにすんなって、頼むから
んなことないですよ、もしを真後ろか目の前に落としたら軌道が下にずれて…
顔にプスッって訳ね♪
バ・バーシアさん・・・楽しそう・・・ですね・・・
じゃビセット、次の機会を楽しみにしてるわ♪
バーシアはそう言いながら中に戻っていった
つ・次があるのかよぉ・・・
ビセットはぐったりとしながら事務所の外へと出ていた

それじゃ私も戻りますね練習頑張ってください
はい、ありがと
フローネも中に入りまた静寂が戻ると次の矢を番え練習を再開した


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